第6話 女剣客、同居人に色々報告する
『あ、やっと気づいてくれたよ、何でさっさと連絡してくれなかったの!』
あれから、午後の授業を受けるため教室へと向かっていった。
桐生さんは午前中で授業が終わったらしく、午後は買い物に行くと話していた。
授業が終わり、スマホの画面を見るとアイリスから大量のメッセージが届いていたため、教室を出てからすぐに、電話をかけた。
第一声は先ほどの耳に突き刺さるような彼女の怒りの声だった。
「……色々あったから」
『色々ってどうせ、大学の近くの甘味処で何を食べようか悩んでいたんじゃないの?』
あながち間違ってもいなかったが説明するのが億劫だったので、ただ一言「違う」とだけ答えた。
『っていうかそんなことどうでもいいの! 『どーつべ』のリスナーのほとんどがオルハちゃんを注目しているんだよ!』
アイリスは興奮気味に大きな声で話し始めた。
突然すぎて耳の奥でキーンと鳴っているような感覚に陥る。
「……知ってる、昨日、あのでかいオークを倒したからでしょ? 何でそんなに騒ぐのかわからないけど」
『昨日オルハちゃんが倒したモンスターは単なるオークじゃなくて、S級モンスターのグレートオークだからだよ!』
「……S級?」
『前にも説明したでしょ?! モンスターはランクに分類されてるって!』
そういえば、前にも同じような質問をしたような気がするし、同じことを言われた覚えがあった。
『S級モンスターなんてそれこそパーティ組んで行かないと無理だって言われてるのに、それを1人で真っ二つにしちゃったら誰だって注目するよ!』
「……あれぐらい普通じゃないの?」
『そんな風に思うのはオルハちゃんだけ! それを口にするの私だけにしといてよ、他の人からしたら嫌味にしか聞こえないから!』
最後にスマホのスピーカーからアイリスのため息が聞こえてきた。
『でも、そういうことにまったく興味を持たないオルハちゃんが知ってるなんて珍しいね』
「……助けた本人と午後の授業の前まで話してたから」
『助けた本人って……もしかしてシオちゃんと?』
「……たしかそう」
別れる前に桐生さんのスマホを見た時に、『シオちゃんねる』って書いてあったような気がした。
『へぇ、助けた有名配信者が同じ大学って随分と世間は狭いんだね』
「……そんなに有名なの?」
『ダンジョン配信者としては有名な子だよ、たしか元々は歌ってみた系をやっていたけど、最近になってダンジョン配信をやりはじめたんじゃなかったかな? 歌が上手いから定期的に見てたりしてたよ』
「……そうなんだ」
そういえば、あの男2人が桐生さんのリスナーを欲しがっていたことを思い出す。
見た目が可愛らしいし、素直な感じがしたので好きになってくれるリスナーは多そうな感じがする。
『それで、彼女とは何を話したの?』
アイリスに桐生さんが自分と同じく新宿ダンジョンで家族が行方不明になっていることや、初心者ダンジョンに苦戦していることなど全て話した。
『シオちゃんも新宿ダンジョンを目標にしているなんて奇遇だね』
「……うん、だから桐生さんとギルドを作ることにした」
『そっかー……ん!?』
「……どうしたの?」
『ちょっとまって今なんていったの!?』
「……『どうしたの?』って言った——」
『じゃなくてその前!』
「……桐生さんとギルドを作るって」
『何でそうなったの!?』
「……桐生さんに誘われたし、目指す場所は一緒だからいいのかなと思って。 帰ったらアイリスにも伝えようと思ってた」
『LIMEでもよかったんだけどなあ……まあ、オルハちゃんが決めたならいいか、そういう面では私は協力できないし』
アイリスはブツブツと独りごちていた。
「……だから、明日桐生さんと市役所に行ってくる。ギルド管理局の出張所があるっていうし」
『わかったよ、それで今日はもう帰ってくるの?』
「……うん、明日早いから、すぐ帰る」
アイリスと話しているうちに駐輪場の自分のバイクの前へと辿り着く。
周りにあるのは自転車や原付バイクがほとんど。中型バイクは自分の以外ないためすぐに見つけることができた。
「……うん、刀もあるね」
刀はシート横のスペースに収まるように固定されている。
桐生さんと会わなければ配信に慣れるため、町田のダンジョンに行こうと思っていたので持ってきていた。
確認してから、ヘルメットを被ってからバイクのキーを回すとブオンと音を立ててエンジンがかかりだした。
最近整備に出したのもあって調子はいいようだ。
「……それじゃ、発進」
シートに跨り、ヘルメットとグローブを装着するとローギアに入れてバイクを発進させた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
オルハがバイクを走らせている一方。
ぎこちなく武器を扱う3人の若者の悲痛の叫びがダンジョン一室で響き渡っていた。
「ここって初心者ダンジョンだよな、何でこんなところに強いモンスターががいるんだよ! 初心者向けだろここ!」
「おい、早くギルド管理局に連絡しろ!」
「うそ……電波がはいらないよぉ!!!」
彼らの前に立ちはだかるのプルプルと揺れる巨大なスライムの中でも脅威とされているデモンウーズ。
このモンスターに飲み込まれたものは何でも溶かしてしまう。
揺れるゼリー状の体に付けられた一つ目で彼らを睨みつける。
標的となったのは1人の女性。逃げようにも部屋の隅まで追い詰められており逃げることは不可能。
デモンウーズがゆっくりと腕を伸ばし、標的になった女性を掴むと大きく開いた口のようにも見える裂け目へと押し込んでいく。
「いやあああああ、たすけ……」
切れ目へ押し込まれた女性は仲間へ手を伸ばしながら助けを求めるが、その手は残ったものたちに届くことはなかった。
「う、うそだろ……おい!」
「ふざけるなああああああああああ!!!」
体を震わせながら各々、怒りや悲しみの声をあげ、戦いを挑んでいくも同じ道を辿ってしまう。
そしてモンスター以外の姿がなくなると、一瞬で辺りが暗くなると、すぐに一部分だけスポットライトが当たる。
照らされているのはストライプのスーツに身を包んだ松下だった。
「皆様、いかがでしたでしょうか? 匿名のリスナー様から頂きました『合成魔獣デモンウーズ』を初心者相手に使ってみたでした」
松下はテレビ番組のストーリーテラーのように、丁寧に挨拶をしていく。
——888888888888
——すごいおもしろかったですよ!
——なかなかのできじゃないか!
——女が最後に飲み込まれるシーンなんかゾクゾクしたゼェェェェェ!
——今日も楽しい配信をありがとう!
——これだけ面白い配信を見せてくれるなんて、デモンウーズを送った甲斐があったってもんだ!
松下の目の前にあるノートパソコンには動画サイトが表示され、コメントが次々と流れていた。
どれも動画の内容を賞賛するものであった。
「次はですね、ちょっと話題になっている人を使って面白い配信をしようかと思っていますので、ぜひお楽しみくださいませ」
画面に向けて再度頭を下げた松下は画面の配信終了ボタンをクリックすると、すぐにスマホを取り出していた。
「でかしたな、リスナーたちも大喜びだったぞ!」
『先輩ィ! よかったみたいっす』
スマホのスピーカーから喜ぶ声が聞こえていた。
「他の奴らにバレないようにさっさと撤収しろ! そして、明日の準備にとりかかれ! いいな!!」
そう告げると一方的に通話を終了させていた。
「ひゃひゃひゃ! 明日は楽しくなりそうだぜ!!!」
下品な笑い声をあげながら松下はジョッキに注がれた飲み物を勢いよく飲み干していった。
この時の松下はこの後、自分の身に降りかかる事態に気づくことはなかった。
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