コミュ障ぼっち、最強剣客として無自覚にバズる〜最弱魔物を真っ二つにしただけなのにバズってしまいました。え、実はS級モンスター? いやいやご冗談を〜
第5話 女剣客、自身が話題の人物になっていることを知る
第5話 女剣客、自身が話題の人物になっていることを知る
「脱退申請だして管理局から受理はされてるでしょ!」
ゆっくりとこちらに歩いてくる男に向けて声を荒げる桐生さん。
表情は先ほどとは一変して怒りの形相となっていた。
「別に脱退したからって抜けた人間と関わっちゃいけないって決まりはねーしな!」
「そうっすよー」
長身男の横にくっついている小柄男もニヤニヤとずっとみていたくもない笑みを浮かべていた。
「……知り合い?」
「違います、こんな奴らと一緒にされたくない!」
桐生さんは心底嫌と言った表情を浮かべる。
彼女と話しているうちに男2人はすぐ目の前までやってきていた。
「おいおい、同じギルドメンバーをそんなに邪険にしないでくれよ、仲良くしようぜ」
「誰が仲間よ! あなたたちが必要としてるのは私じゃなくて私のリスナーたちでしょ!」
「だってしょうがないじゃないっすかー、アンタがギルドに貢献できるのはそれぐらいしかないっす」
小柄男は虎の威を借る狐の如く、長身男の後ろに隠れながら辛辣な言葉を発していた。
「私はあんたたちのようなゲスな理由で配信をしているわけじゃない!」
桐生さんの叫びに2人は大声で笑い出していた。
「初心者ダンジョンもまともに踏破できないやつが、目指してるのは新宿ダンジョンなんかできるわけないっすよ!」
「ホントだよなァ!」
男2人たちはゲラゲラと腹を抱えて笑う始末。
……正直見ていて気分が悪い。
「おまえができることと言ったら、とっととリスナーをこっちに寄越すか、そうだなぁ……」
そう言って男は桐生さんの顔を見て、いやらしく舌で自身の唇の周りを舐め始めた。
「顔立ちもいいし、綺麗な肌してるからな! 配信内でリスナーに露出してもらうのはどうよ!」
「だめっすよ先輩ィ! そんなことしたらどーつべくんが怒っちゃいますよ〜」
「そりゃそうか!」
2人の男は私でもわかるぐらいの低俗な会話をした後、大声をあげて笑い出していた。
「……最低ね」
私は桐生さんを庇うように彼女の前に立ち、ゲラゲラと下品に笑う男2人を睨んでいた。
「さ、桜坂さん……?」
桐生さんは驚いた様子で私の名前を呼ぶ。
それに気づいた男2人たちは私を威嚇するような顔で見ていた。
「何だおまえ? 悪いけど俺らの話に首突っ込んでこないでくれるか?」
「そうっすよ、これは俺たちギルドのことであって——ひぃぃぃぃ!?」
小柄男に対して視線を向けると震え上がりながら長身男の背中に隠れてしまった。
……私、そんなに恐ろしい顔をしていたのだろうか?
「それとも、シオンちゃんの代わりにアクセス数稼いでくれんのか? 見た感じ顔もいいし、出るとこ出てるからそういうのが好きなやつにはウケがいいかもなァ!」
長身男は私の全身を舐め回すように見るとこちらに向けて手を伸ばし、右肩を掴んできた。
「それじゃちょっとアッチで話そうぜ」
私はため息をつきながら、腕を動かし肩を掴んでいた長身男の手を振り払うと、そのまま勢いに乗せて突き出した。
「うぉ!っとっとっと!」
突然押されたため、長身男はバランスを崩し、ドスンと大きな音を立てて尻餅をついていた。
武器がない時などの緊急時に使える護身術として、祖母に教わったものだ。
こんなことで使うことになるとは思いもしなかったけど。
「先輩ィ! 大丈夫っすか! て、てめぇ!先輩にな、何しやがる!」
小柄男は倒れた長身男の傍に行くと、震えた声で威勢を張っていたが私の顔を見ると先ほどと、同じように奇声を上げて視線をそらしていた。
「いてて……こんなことしてタダですむと思うなよ!」
長身男はこちらに向けて叫び声を上げながら立ち上がる。
「おい、イネ! おまえも女に睨まれたぐらいでビビってんじゃねーよ!」
「先輩も睨まれてみてくださいよ! 尋常じゃない怖さですってまるで何人も葬ってるるような目っすよ!」
イネと呼ばれた小柄男は必死に説明していると、何かに気づいたのかブルブルと体を震わせながら私を指差す。
「どこかでみたことあると思ったら、この女、昨日のダンジョンでグレートオークをぶった斬った女剣客っすよ!」
「あーん? おまえ、そんなでまかせ誰が信じるとでも——」
長身男はスマホを取り出して操作していき画面を食い入るように見ていた。
何度も私の顔とスマホの画面を交互に見ていくうちに、顔が真っ青になっていった。
「お、おまえ! それを早く言え!」
表情を変えないまま長身男は小柄男の頭へと拳を振り落とす。
「イタッ! ワイだってさっき気づいたんっすよ!」
頭をさすりながら話を続ける小柄男。
「おい、ずらかるぞ! S級モンスターを軽くあしらうをやつに俺らが太刀打ちできるはずがねえ!」
「は、はいぃぃぃぃぃ!」
男2人はこちらに目もくれずその場から立ち去っていった。
先ほどの威勢はどこへ飛んでいってしまったのやら……。
「あ、ありがとうございます……」
男たちの姿が見えなくなると後ろにいる桐生さんが声をかけてきた。
「……私は何もしてないけどね」
そう答えると桐生さんは下を向いてしまていた。
「……そういえば1つ聞きたいことがあるんだけど?」
「ど、どうしたんですか?」
桐生さんは顔を上げると目を大きく開けながら私の顔を見る。
「……女剣客って誰のこと?」
私の質問に桐生さんは「うーん」と短い唸り声を上げると、肩にかけたポーチからキラキラと輝いているケースをつけたスマホを取り出して私に画面を見せる。
「さ、桜坂さんのことです、どうやら昨日のことが私の配信に載ってて、たくさんの人の目についたみたいです」
彼女のスマホの画面には私が昨日モンスターと戦っている動画がいくつも表示されていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「シオンちゃんを連れてきてねーだと!」
数時間後、長身男と小柄男は繁華街の地下にある会員制クラブのVIPルームに足を運ぶと
高級そうなソファにどっしりとした体勢で座る黒髪オールバックの男に怒鳴りつけられていた。
「無理やり連れてこようとしたんですが、思わぬ邪魔が入りまして……」
「誰だ、その邪魔な奴ってのは!」
オールバックの男に怒鳴られた長身男は驚いたのか体をビクッとさせていた
「き、昨日のシオちゃんねるに出てきたグレートオークを真っ二つにした奴っすよ、松下さん!」
その隣で、長身男の後ろに隠れていた小柄男が口を挟む。
「ってことはお前ら、女にやられたってのか!」
松下と呼ばれた男は持っていたグラスと2人に向けて投げつける。
2人に当たることはなかったがグラスは割れ、辺りに破片が飛び散っていた。
「無茶言わないでくださいっすよ! ワイらじゃ全然太刀打ちできないっすよ!」
小柄男が声絶えるも松下は部屋中に響き渡るような怒号を浴びせると、何かを思い出したかのように不適な笑みを浮かべていた。
「そうだ、この前面白いものを手に入れたんだった」
松下はソファの横の袖机に置かれたガラス製の瓶を手に取る。
綺麗な見た目とは裏腹に中にはドロドロとした黒に近い緑の石が入っていた。
「ま、松下さん……なんすかコレ!?」
長身男が恐る恐る瓶を見ていると、松下は口元を歪ませていた。
「すげえモノだよ、コレを使って動画撮ったらバカウケ間違いなしだぜ! 特にうちのリスナーはな!」
松下はその場で1人高笑いをしていた。
「いいか、おまえら! これと女剣客を使って、リスナーたちを楽しませるんだぞ、いいな!」
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