第4話 女剣客、意気投合する仲間と出会う

 「……『龍王星団』ってたしか」


 桐生さんは私の目を一心に見ている。

 『龍王星団』はたしか、お父さんがいたギルドだったのは覚えている。


 「お願いします! 能力がダメでも雑用とか広報とかできる限りのことはしますので!」


 両手を力強く重ねた桐生さんはまるで私を神仏のように拝み始めていた。

 

 「……えっと」

 「な、なんでしょう!」

 「……私、そこのギルドのメンバーじゃない」

 「え……」


 私が答えると桐生さんは目を大きく見開いていた。


 「で、でも、ギルド長の名前には桜坂弦一郎って……!」

 「……それはお父さんの名前だけど、そこのギルドと私は関係ない」


 私の返答に桐生さんは「うぅ……」と唸り声をあげながら頭と肩をガックリと落とす。

 その姿をみて申し訳ない気持ちになってしまう。

 

 「……どうして『龍王星団』に?」


 しばし桐生さんは項垂れていたため、静寂が続いていた。

 その空間に居た堪れなくなった私は声をかけると、彼女はゆっくりと頭を上げた。


 「私、年の離れた姉がいるんです」


 桐生さんはぼつぼつと話し始めたので、黙って頷く。


 「私が物心ついた時には両親は事故で亡くなったので、実質姉が親みたいな感じでした。 姉は中学卒業するとすぐにダンジョン探索者になったんです。 どうせ高校行っても勉強なんかしないからって理由で……」

 

 中学卒業と同時にダンジョン探索者になれたということはライセンス式になる前だろうか。

 おそらくダンジョン管理局ができる前なので、10年近く前のようだ。

 ちなみに今は18歳以上でないとライセンスの試験すら受けることができなくなっている。

 

 「その姉が大手ギルドである『龍王星団』に入って、ギルドでも活躍してたみたいなんです」


 嬉しそうな声で話していたが、すぐに桐生さんの顔が曇り始めた。


 「でも、3年前、ギルドのメンバーと一緒に新宿ダンジョンへ行ったまま行方不明になってしまったんです」

 「……そう……なのね」

 

 驚きで言葉が詰まりそうになりながらも相槌を打つ。


 「だから、お姉ちゃんを助けるために『龍王星団』に入る必要があるんです。 今、最高難度と言われている新宿ダンジョンに挑戦できるのはあそこしかないから」

 

 桐生さんは膝の上に置いた手を先ほどよりも力強く握りしめていた。

 

 「前に『龍王星団』のギルドに行ったんですけど、新宿ダンジョンに行けないものは必要ないと、門前払いをくらっちゃって」


 桐生さんは乾いた笑いをこぼしていた。

 

 「悔しいからせめて自分1人で初心者ダンジョンだけは踏破してやるって思ってたら昨日のアレです」


 話終わると、彼女はため息をつきながら再び頭を下に下ろす。

 そんな彼女を見て、どう声を掛ければいいのかわからなかった。

 剣術以外できない自分が情けなくなって私までため息がこぼれてしまっていた。

 

 「あ……! ご、ごめんなさい! 私のしょうもない話なんか聞いても面白くなかったですよね!」


 私のため息が聞こえたのか、桐生さんは頭を上げると私の顔を見ながら慌てふためいていた。


 「そ、そういえば、桜坂さんは何で初心者ダンジョンに? S級モンスターを倒せるほど強い人なのに」


 桐生さんはこの重苦しい雰囲気を払拭するかのように話の話題を変える。

 私の話を聞いても変わらない気がするけど……。

 

 「私の場合は——」


 彼女も身の上を話してくれたのに、自分が言わないのは失礼だと感じ

 私も慣れない口をなんとか開く。

 

 幼少の頃に新宿ダンジョンで行方不明になった父を探して状況してきたこと。

 初心者ダンジョンは踏破できたが、次のダンジョンではポータルが必要不可欠であること。

 ギルドに入ってもうまくやっていける自信がないので、ダンジョン配信でお金を稼ごうとしていること。


 昨日今日であったばかりの人間に何でここまで話せるのか自分でも不思議でならなかった。

 考えられるのは新宿で家族が行方不明になったという同じ境遇だからかもしれない。

 ——もしかしたら、彼女となら。


 「そうだったんですか……お父さんも新宿ダンジョンで」


 私の話が終わると桐生さんは申し訳なさそうな顔を見せていた。


 「目的は同じですね……私たち、強さは全然違いますけど」


 

 桐生さん苦笑いをして私の顔を見ていた。

 そして何かを決心したように、「うん」と力強くうなづく。


 「桜坂さん、よかったらですけど……私と一緒にギルドを作りませんか!」


 桐生さんはここ数分で一番良いと思える笑顔でそう告げてきた。

 

 「……わ、私と?」

 「はい! 戦闘はダメダメですが、それ以外であればなんとかお役に立てるかと……!」

 

 元気に答えた後、すぐにあたふたとする桐生さん。彼女なりの必死さが伝わってきていた。

 むしろ願ってもないこと。断る理由はない。

 断った時の彼女の困った顔を見るのがとても辛いってのもあるけど。

 

 「……こ、こんな私でよければ喜んで」


 若干の照れ臭さを覚えながらも彼女の厚意に応える。


 「ありがとうございます、それじゃ——」

 

 「おいおい、何勝手に決めてくれちゃってんだよ」


 桐生さんの言葉を遮るように聞き覚えのない声があたりに響いた。

 声がした方へ顔を向けた彼女は驚愕していた。

 私も同じ方へと視線を移した先には見覚えのない長身の男と小柄の男が立っていた。

 

 長身男は金と黒の混じった髪型にドクロがデザインされた黒いタンクトップ姿。

 その後ろにはキチンと斜めに髪を揃え、シャツのボタンを首元まで締めている小柄の男が1人立っていた。

 人を見かけで判断してはいけないと言われてきたが、こればかりは良い感じには見ることはできなかった。

 

 「ギルドを勝手に抜けるなんて違反行為だぜ、シオンちゃんよぉ」

 

 長身男は彼女を下品な笑いを浮かべながらゆっくりとこちらへ歩き出していた。


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