第3話 女剣客、助けたダンジョン配信者と邂逅
「さてと、オルハちゃんは大学に行ったし今のうちに……」
次の日の朝、家主であるオルハちゃんを見送ると、すぐに自分の部屋に入りパソコンを立ち上げる。
昨日の配信のアクセス数やユーザーの動向など、確認するためにブックマークから動画配信サイトをクリックしていく。
「ホントなら配信者本人がやるべきことなんだけどなあ……」
当の本人は機械音痴を理由にやりたがらないので仕方なく私がやっているのだが……
動画配信サイトのTOPページにアクセスして、私は驚きのあまり大声を上げてしまっていた。
「な、何で……オルハちゃんの動画が!?」
ディスプレイにはショート動画や切り抜き動画とグレートオークと戦うオルハちゃんの動画が大量にアップされていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「こちらには届けられていないですね……」
自分が通う大学構内にある甘味処のレジにて、割烹着姿の店員さんが申し訳なさそうに話していた。
「……そう、ですか」
「学生証であれば、お客様が学生課さんへ届けてる可能性もありますね」
にっこりと笑顔で店員さんは伝えてくれるが、学生課にはここへ来る前に行っていた。
それをここで言っても仕方がないことなので、店員さんに礼を告げてから紙袋を持って店を出た。
「……ダンジョン行く前にここでお茶とお団子を買ったから落としたらここだと思ったのに」
何故、喫茶店で学生証をだしたのかと言うと、提示すれば5%引きになるから。
「……ここに無いってことは、ダンジョンかな」
昨日はモンスターに襲われている人を助けるために全速力で走ったため、そこで落としたのかもしれない。
面倒くさがってジャケットの内ポケットにいれたことを悔やむ。
「……後で、再発行手続き出しておこう」
学生証の再発行にはそれなりの期間がかかるようだ。
入学時に学生証には色々機械が埋め込まれているとか話していたが、そういうのに疎い私が理解できるはずもなくそのまま流していた。
「……当分、お店の利用は控えないとダメかな」
今日はたまたま、店員さんが私の顔を覚えていたので、割り引いてくれたのだけれども。
ため息をつきながら大学構内にある広場へと向かい、誰もいないベンチに座る。
広場の中央には噴水があり、常に水を射出している。
5月に入ってから急激に気温が上昇したせいか、ほとんどの学生は空調の効いた学食や大学構外の喫茶店で食事を取ったり次の授業まで時間を潰しているのが多い。
「……やっぱりここが落ち着く」
この場所には私以外の姿はなかった。
大学に入学するまでは自然豊かな山奥の田舎に住んでいたためか、人の多いところが苦手。
暑くても人があまりいない場所や自然の多いところが落ち着く。長年の慣れというのはなかなか抜けないようだ。
「……いただきます」
紙袋から『きなこたっぷりのわらび餅』と書かれた紙製の容器を取り出だし、蓋を開くと中には容器いっぱいのきなこが目に映る。
箸できなこをかき分けながらわらび餅を摘んで口に運んでいくと、きなこの甘みとわらび餅のモチモチ感が広がっていく。
この食感と味わいが好きで、ほぼ毎日と言っていいほどあそこの甘味処に足を運んでいると言っても過言ではない。
途中で、一緒に買った抹茶ミルクラテを挟みながらわらび餅を堪能していると噴水の水を纏った風が舞い、容器にあるきなこを撒き散らしていく。
外だから別にいいかと思いながら、次のわらび餅に箸を伸ばそうとしていると……
「うわ……何か顔にかかったんだけど!?」
突然大声が聞こえてきた。
すぐに声のする方へ顔を向けるとその先には見覚えのある姿が。
そこには昨日、ダンジョンで助けた女性が頬に付着したきなこを払おうとしていた。
「あ……!」
あちらも私がいたことに気づいたのか、長い髪を揺らしながらこちらへと走ってきた。
「え、えっと……桜坂、おりはさん、ですよね!」
目の前にやってきた女性は大きな声で私の名前を呼ぶ。
……微妙に間違っているが指摘しようにもなかなか口を開けることができなかった。
「き、昨日はありがとうございました! あの時来てくれなかったら私……!」
女性は昨日と同じようにお辞儀をしていた。
「……気にしないで、人を助けることは当たり前だから」
容器の蓋を閉めながら、彼女にそう告げる。
この状況をアイリスが見ていたら、「もっと愛想良くしなさい」とか言われそうだ。
まあ、それができたら現状苦労はしないのだが。
「……そういえば、何で私の名前を?」
昨日は耳元でアイリスが煩かったので名乗らないまま、その場を去ったはずなのに。
「そ、そうだ! ダンジョンにこれが落ちてたんです!」
彼女は肩からかけていたポシェットから一枚のカードを取り出すと、私の方へと向ける。
「……学生証!」
彼女の手には私の学生証が握られていた。
「……よかった」
カードを受け取り、じっくりと学生証を見る。
眠たそうな表情の写真と桜坂織葉と書かれたそれは正真正銘私の学生証だった。
これで明日からも甘味処を利用することができると思うだけで口元が緩みそうになっていた。
「……ありがとう、えっと……」
「あ、私、2年の
言葉が詰まったことで察したのか、桐生さんはすぐに自分の名前を告げた。
「……改めまして、桜坂織葉(おるは)よ」
自分の口から名前を告げると、桐生さんは顔を真っ赤にしながら私の顔を見る。
どうやら間違っていることに気づいたようだった。
「あ、あの……! お隣座っていいですか!」
桐生さんは私が座っているベンチの空いている方を指さしていた。
「……いいわよ」
答えると同時に座っているベンチの横に置いていた紙袋を退ける。
桐生さんは私の隣に座ると、両手を握りしめたまま膝の上に乗せていた。
こう言う時何も言えない自分にため息が出そうになる。
「え、えっと……」
どうやら彼女の同じようで、下を向いてぶつぶつと呟いていた。
「あ、あの!」
暫くして、桐生さんが震えた声を上げる。
「お、お願いがあるんですが!」
「……ど、どうしたの?」
桐生さんは目を大きく開きながら私の顔をじっと見ていた。
つぶらな瞳がキラキラと輝いているようにも見える。
「私をギルド『龍王星団』にいれてほしいんです!」
桐生さんは顔を赤らめながら大きな声ではっきりとそう答えた。
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