第1話 女剣客、ダンジョンを徘徊する

 『うん、同接数0だね』


 微かな灯りしかない薄暗い空間にて、私、桜坂織葉さくらざか おるはの耳元に不安混じりの声が入ってきた。

 声の主はダンジョン攻略のパートナーであるアイリス。

 この場にいるのではなく、家で色々な電子機器を駆使してダンジョンの状況を伝えてくれている。

 

 「……なんで?」

 『そりゃそうだよ、配信動画なのに全く喋らないし!』

 

 私の質問にいつも通りの甲高い声で返すアイリス。

 突然大きな声が聞こえてきたため、耳の奥に刃が刺さったような感覚になっていた。


 「……喋るといってもこんなところで、何を喋ればいいの?」

 『例えばダンジョンの様子とか、探索に関する意気込みなどとか、とりあえず何でもいいんだよ!』

 「……うーん」


 アイリスの返答内容に自然と唸り声が出てしまう。

 それを聞いたインカムからアイリスのため息が聞こえてきた。


 「……とりあえず先に進むよ」

 『オッケー!』


 周囲を警戒しながら、真っ直ぐに続いている道を歩いていく。


 私が今歩いているのはダンジョンと呼ばれる薄暗い洞窟の中。

 ダンジョンが出るようになって、もうすぐ25年になるという話を聞いた。

 最近20歳を迎えた私よりも年上ということになる。

 

 ダンジョンが出始めた頃は、誰も近づかなかったが、ある好奇心旺盛の男が中に入っていき、奥地でこれまでに見たことのない財宝や工芸品を発見して持ち帰ってきた。

 その話を聞いた人々は一攫千金狙いで、各地にあるダンジョンを探索する人間が増え始めた。


 以降、ダンジョンを探索する人間のことを『探索者』と呼ぶようになったと言われている。


 

 『オルハちゃん、前方に反応! 注意して……!』

 

 アイリスの声が聞こえると、持っている武器を構えながらゆっくりと歩き出す。

 

 『反応は2つ。なんか不自然な動きをしてるから人間じゃないと思う』


 「……ってことはモンスター」

 

 ダンジョンにあるのは必ずしも、財宝や工芸品だけではない。

 モンスターとはダンジョンの中には潜んでいるバケモノのことを指している。

 二足歩行や四足歩行、中にはジェル状のものなど多種多様。

 

 まだまだモンスターに関して知られていないことは多いが唯一これだけは絶対と言えるものがある。

 

 モンスターは私たち『探索者』を襲いかかってくる……と、いうことだ。

 

 何のために人間を襲うのかは知られていないが、事実モンスターに襲われて命を落とす探索者も少なくない。

 

 今、そのモンスターが私の目の前に姿を見せていた。


 「……アイリス、ゴブリンがいた。さっきの反応はこいつらかも」


 モンスターにバレないように小声で話しかけると、アイリスが反応する。

 視線の先には一見、体が緑色の小さな生物……ゴブリンの姿。

 その手には小さなナイフを持っており、人間を見つけると容赦無く襲いかかってくる。

 

 『オルハちゃんなら大丈夫だと思うけど、油断しないようにね』

 「……わかってる」

 

 モンスターの前に立つと戯れ合っていた2匹のゴブリンは即座にナイフを持ち、ゆっさゆっさと体を横に揺らしながら走ってきた。

 どうやらそのままナイフで刺してくるつもりのようだ


 もちろん、そのまま黙って刺されるつもりはない。

 私は自前の刀を構えると、ゴブリン2匹を一心に見つめながら、左手で柄を掴む。

 近づいてきたゴブリンたちがナイフを突き出したタイミングで鞘から刀身を抜き、真一文字に払うと2匹のゴブリンたちは時が止まったかのようにその場に立ち尽くしていた。


「……さようなら」

 

 消えるような微かな声で呟きながら刀身を鞘に収める。

 

「ぐぎゃあああああああ!」

「ぎゃがあああああああ!」


 その際にキンッ!と柄と鞘が重なり合う音が周囲に鳴り響くと同時に2匹のゴブリンたちは

 断末魔の声をあげながらその場に倒れた。


『あっ!』

「……どうしたの?」

『同接数が1になった!』


 嬉しい知らせにインカムへと意識を集中させる。


『だけど、コメント書いてすぐに0になっちゃった』

「……コメントには何て?」

『”初心者ダンジョンで雑魚倒すだけの動画か、つまんねー”だって』


 インカムから聞こえる無慈悲な言葉に腹の奥底からため息が出てしまっていた。


『戦闘に関して申し分ないのに……口下手じゃなければねえ』


 彼女の言葉が、鋭利な矢のように私の体に突き刺さってきた。

 

 実家を出てからもうすぐ1年。

 行方不明になった父を探すために大学へと通う傍らでダンジョン探索者となったのはいいが、今の私は様々な困難という壁に直面していた。

 

 『よくそれで、ライセンス取得できたよね?』

 「……戦闘面で全てカバーした」

 『やってること脳筋じゃん!?』


 私が幼い頃には誰もがダンジョンに入ることができたが、死亡者や行方不明者が多くなったということで国が管理を行いだした。

 そのため、ダンジョンに入るには、国が運営する『ダンジョン管理局』の元、専門の訓練や試験を通過した際に交付されるライセンスが必要になっていた。

 訓練にはコミュニケーション能力も問われるのだが、そこは戦闘面で好成績を納めることでカバーをすることができた。

  

 「……アイリス」

 『どうしたの?』

 「……どうしたら、ギルドを作れると思う?」

 『まずは口下手を直すところから始めようか』

 「……剣術より難しいこと言わないで」

 

 あの日から剣術の腕を上げることに専念しすぎた結果、誰もが直面する戦闘に関しての困難はない。

 だが、それを優先しすぎた代償に人と交流をとることが難しく感じていた。

 

 「……何で、ダンジョン探索にギルドの設立が必要になるの」

 『その方が生存率あがるからでしょ?』


 ライセンスを取得できてもすぐに好きなダンジョンに行けるわけではなく、段階を踏んでいく必要がある。

 私が行きたいのは、父親が行方不明になった新宿ダンジョンだが、そこへ行くには2つのダンジョンを踏破しなければならない。

 

 私がいる町田ダンジョンは階層も多くなく、弱いモンスターしか生息しないことから、通称『初心者ダンジョン』と呼ばれ、ライセンスを持っているものなら誰でも踏破可能だと言われている。

 

 問題はここからだ、次のダンジョンは何十層もあり、何回かに分けて進んでいく必要がある。

 そのためにはダンジョン管理局が作ったある装置の利用が不可欠になるのだが……。

 

 「……だからってポータルの利用に莫大な料金をかけるのはおかしいと思う」

 『だからギルド加入を推奨しているんでしょ?』

 

 ポータルとはダンジョンにある特殊な装置で、階層ごとに設置されている。

 登録すれば瞬時に入り口や登録したところまで移動ができるものだ。

 

 アイリスの言う通り、2人以上ギルドを作ったり加入すれば抑えることはできるのだが、コミュニケーション能力が低い私にとってそれがいちばんの壁となっていた。


 『私がメンバーとして入れればいいんだけどね』

 「……それは仕方ないよ、だから案を出してくれたわけだし」

 『案を出すだけなら簡単なんだけどね』

 

 私の性格ではギルドを作るのは無理だと判断し、ギルド設立しないでポータルを使うようにするための方法として、彼女が提案したのは人気のコンテンツである『ダンジョン配信』だった。

 アイリス曰く、うまくいけばポータルの料金を軽く払えるぐらいの金額が稼げると話していたが、ここでも苦手とするものが壁となってしまっていた。

 

 ちなみにこの町田ダンジョンは既に踏破しているのだが、ここにいるのは機械音痴の私が配信の操作に慣れるためにここを徘徊している。

 アイリス曰く、ソロの探索者をあわよくば勧誘できればという算段もあるとか話していた。

 

 『くよくよしても仕方ないし、何事も最初からうまくいかないって! それよりも時間も遅いし戻ってきなよ』

 「……そうする」


 スマホの画面で時間を確認すると、もうすぐ日が暮れる時間となっていた。

 

 『配信の切り忘れに注意してね、まあ同接0だから大丈夫だと思うけど』

 

 アイリスの笑いに若干の苛立ちを覚えながらもスマホのアプリを起動させて配信終了をしようとしていると……

 

 「きゃああああああああ!」


 ダンジョン内に切り裂くような甲高い声が聞こえてきた。


 『何、今の!?』


 アイリスの慌てる声が耳元に聞こえてきた。


 「……どうみても女性の叫び声」


 答えると同時に私は叫び声がした方向へと走り出していた。


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