コミュ障ぼっち、最強剣客として無自覚にバズる〜最弱魔物を真っ二つにしただけなのにバズってしまいました。え、実はS級モンスター? いやいやご冗談を〜

綾瀬桂樹

プロローグ:女剣客、旅立つ


 「こちら、新宿ダンジョン前です! 3日前にこちらに入っていた国内最大級のギルドが消息を絶ちました」


 忘れもしない、あの日のことは。

 居間で祖母と一緒にテレビのニュース番組を見ていた。


 そこに映っているのはドラマや映画の1カットではない。現実に起きていることだ。


 画面の奥にはニュースキャスターやカメラマン。

 中に入って行ったというギルドメンバーの親族がダンジョンの入り口の前に立っていた。


 「繰り返します、3日前にこちらの新宿ダンジョンを探索しに行ったのははS級ランクのギルド『龍王星団』ということです、中継からは以上です」


 すぐに中継からスタジオに変わるとご意見番と呼ばれたスーツ姿の初老の男性達が討論を始めていた。

 

 「我が国の精鋭たちを集めても無理だったということなのか……」

 「一刻も早く、こんな危険な場所は封鎖するべきだと思うのだがね」

 「ですが、ここにあるのは日本の新たな資金源としても……」

 

 どうやら討論に熱が入ったのか、司会者が止めようとするもそれを遮って討論が続けられた。

 この時の私は幼かったため、話の内容に関しては全く理解できていなかった。

 討論が終了すると、テレビ画面にはギルドメンバーの名前が顔写真と一緒に映し出される。

 

 「……あ、お父さん!」


 いつも見る厳しい顔つきの父親、桜坂弦一郎の名前と写真を見つけ、立ち上がって画面に向けて指を差してから

 テレビに近づこうとしていた。

 

 「織葉おるは、座っていなさい」


 だが、隣に座っていた祖母に諌められてしまう。


 「でも、おばあちゃん! テレビにお父さんが……」

 「……こちらに来ていなさい」


 いつもは優しく接してくれる、おばあちゃんだが、その日に限っては微笑むことはなかった。


 テレビの報道から数年経っても父が家に戻ることはなかった。

 その時の私には理解できなかったが、数年経ってあの時のお祖母様の気持ちを知り、私は大声をあげて泣いた。


 涙が枯れるくらい泣いた後、私はお祖母様にこう告げたのだった。


 ——私が、お父さんを、助けてみせる!




 更に数年後、私は高校を卒業し、大学への進学を機に実家をでることにした。


 「まったく、弦一郎に似て頑固だと思っていたけど、まさか本当に助けに行くなんて思わなかったな」


 上京する日に家の玄関で松葉が描かれた着物を見に纏った祖母は呆れた顔で言い放つ。

 

 「一度決心したことは曲げるものじゃないって言ってたでしょ」

 「そうじゃな」

 

 私が返すと祖母はため息混じりに返す。

 父親を助けると決心したあの日から、他のことにも目もくれず剣の技術を上げるために明け暮れてきた。

 家が剣術や居合、体術などの教える道場を経営していたことも要因ではあるのだが。


 「この私が鍛えたのだから、そんじょそこらにいる連中に負けることはないと思うが、最後にこれだけは言っておくぞ」


 祖母は険しい顔になって私の顔を見ていた。

 

 「我が『龍桜神妙流』は力だけを求めるものではないことは忘れていないだろうね」

 「……うん、『人を助け、人を活かし、人を導く』ための剣でしょ?」


 その言葉は常に祖母から嫌というほど聞かされていた言葉だ。

 私が答えると祖母は「よろしい」と口にしていた。

 

 「わかっているなら良し。何があっても絶対に忘れるんじゃないぞ」

 

 祖母の言葉に黙って頷く。


 「……行ってきます。ここに帰る時はお父様と一緒に帰ってくるから」


 靴紐を結び終え、立ち上がるとすぐに祖母の顔を見る。

 大きいと思えていた祖母が気がつけば私の背が高くなっていた。

 ——でも、なぜか自分が低いと思えてしまうのはなんでだろう。


 「それはいいが、決して無理はするんじゃないぞ」


 祖母は優しく微笑みながら応えてくれた。

 私も同じように微笑みながら荷物を持って玄関から外へと出て行った。


「……お父さん待ってて、助けに行くから」

 

 雲ひとつない、燦々と日差しが美しく光る中、私は目標に向けて歩き出して行った。




「……行ってしまったか」


 凛々しく巣立っていったたった1人の孫娘の姿を見て祖母は心配な様子をため息にこめていた。


「剣の腕を磨くために、全くと言っていいほど人との交流をしてこなかったあの子が都会でやっていけるのだろうか」


 祖母はとって唯一の心配事を呟いていた。


「ここは千尋の谷に突き落とす獅子の如く、孫娘を信じてみるほかないか……」

 

 そう呟いた祖母はゆっくりと庭に咲く大きな桜の木へと視線を移す。


「この地に眠る我が先人たちよ、我が孫を見守りくださいませ」

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