第18話

 両者並び立ち、睨み合いを続ける零と妖。


『ゲハハハハハッ!』

 

 先に動いたのは妖の方であった。

 妖は自分の前に立つ零へと拳を振るい、彼女を宙へと打ち上げる。


『我は百鬼夜行が率いし五鬼が一柱、白鬼王』 

 

 妖……白鬼王は愉快そうに笑い、己が名を叫ぶ。


『我が御力の前にひれ伏せぇい!』 

 

 白鬼王がその場で足踏みを一つ。

 それによって浮き上がった数多の石へと白鬼王は妖術をかけ、それらを砲弾のようにして零の方へと飛ばしていく。

 石の一つ一つがダイヤモンドよりも遥かに硬くなるよう強化され、亜光速に達するほどの速度で駆け抜けていく。



「無駄です」

 

  

 小石が一つ当たるだけでただの凡百であれば死を免れない圧倒的な暴力。

 だが、零は決して凡百などではなく、人類の長い歴史の中でもトップクラスの才能と実力を兼ね備える英傑が一人にして現代最強。 


『……あん?』

 

 白鬼王が飛ばした小石は零に当たるよりも前にその悉くが零に当たる前にその姿を忽然と消失させる。


「相手が悪い……私から言えるのはただそれだけです」

 

 いつ移動したのか。

 上空から白鬼王の背後へと移っていた零。


『……ッ!?』

 

 それに気づいた白鬼王が慌てて零から距離を取るも……。


『かふっ!?』

 

 しかし、それは何もかもが遅かった。

 既に白鬼王は零の逃げられない時の牢獄へと閉じ込められた後。


『こ、これは……ッ』

 

 白鬼王の視界は既に暗転し、何も聞こえず、何も感じることが出来ない。

 白鬼王に出来ることはただ自ら次々に出来る傷を……否、出来ているのではない。


『俺の、昔の……ッ!』

 

 戻っているのだ。

 白鬼王は何も感じぬ世界でかつて、自分が負ったことのある傷が再びその当時の姿で復元され、次々と白鬼王の体へと傷が増えていくという現状を前に何も出来ず、ただ痛みに耐えることしか出来なかった。


『……ァ』

 

 どれだけの時間が経ったのだろうか。

 白鬼王の意識は途絶え、多くの傷を負って血を流すその体は零の前に倒れ伏している。


「終わりです」


 既に息絶えていると言っても過言ではない白鬼王の首へと振り、その首を落として完全にその命を途絶えさせた零は勝利宣言を口にするのだった。

 

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