第3話

 ただの女子高校生でしかなかった少女、真倉佐奈の人生が大きく変わったのは今より数週間前のことだ。

 ある日、突然他の人には見えない異形の怪物が見えるようになったのだ。


 自分がおかしくなっただけ……自分は何も見えていない。

 そう言い聞かせながらなんとか恐怖に耐えて佐奈はここままなんとか生活してきた。


「えっとね……まずここの式を変形すると……」

 

 そしたらいつの間にか異形の怪物をもぐもぐおやつ感覚で食べているクラスの男子に勉強を教えてもらっているというよくわからない状況に帰結していた。

 

「……」


 佐奈は自分の隣に座り、勉強を教えてくれている少年の方へと視線を向ける。

 女子よりも小柄で細い体で肌も白く、軟弱な印象与えるその体。

 黒くて見るからにすべすべな髪にパッチリと開いた大きな黒い瞳……テレビで見るような俳優やアイドルと比べるのすら烏滸がましいと思ってしまうほどの美形でどこか神秘的な雰囲気を与えてくれるその相貌。

 

 守ってあげたいランキング一位。

 可愛いランキング一位。

 カッコいいランキング一位。

 美形ランキング一位。

 

 高校の生徒内でひそかに行われている見た目に関するランキングにおいて投票に参加した男女すべての票を搔っ攫って一位に君臨した圧倒的な美少年である間宮唯斗。

 

 こうして佐奈が隣に立っているだけで浄化されてしまうほどの美形オーラを漂わせる唯斗の手に握られているのは小さな異形の怪異。

 見るだけで泣きそうになるほど禍々しいそれを躊躇なく口に運び、美味しそうに食べる……なんか、別の意味で自分が消し飛ばされる気がしてくる佐奈。


「……」


「ん?さっきから僕のおやつ見てどうしたの……?あっ、真倉さんも食べたい?」

 

 唯斗は何をとち狂ったのか。

 自身の手にある怪異を佐奈が食べたそうに見ていると判断し、それを佐奈の方へと向ける。


『……ピキャ』

 

「……ッ!だ、大丈夫だから!」


「あっ?そう……なら、僕が美味しく食べちゃうね」


「う、うん。そう……そうして。そ、そう……次はここの問題がわからないんだけど……」


「ん?あぁ……ここはね」


 佐奈は唯斗の手にある怪異から逃げるように、教材に書かれている問題の一つを指差し、疑問の声を上げる。

 唯斗は定期テスト学年一位の秀才。

 勉強を教えるのも抜群にうまかった。


「仲睦まじい様子のところ……申し訳ないが少々話しても良いだろうか?」

 

 佐奈も唯斗も。

 訳がわからぬままに黒塗りの高級車に乗せられて訳のわからぬままに大きな建物の一室に通されて待つように言われた二人。

 特にやることもなく、自然と学生らしく勉強を始めたその二人へと一人の女性が声をかけるのだった。

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