第5句 君だけを 見ていたはずの 夏終わる

通り過ぎる雑踏の群れを。

私は見つめていた。


余りの多さに。

数は分からなかった。


蒸し暑さと。

ムッとした喧騒が凄かったけど。


全然。

嫌じゃ、無かった。


待ち合わせ時間よりも。

一時間以上も早く。


私は改札口で待っていた。


買ってもらったばかりの浴衣の模様を。

眺めるだけで嬉しかったから。


クラスメイト達との待ち合わせ。

花火大会を観るために。


君と二人きりだと、良いのに。


だけど、現実は甘くない。

それでも、良しとしよう。


君と花火を観られるのだから。


ようやく合流して。

凄まじい人ごみの中を。


みんなで歩いた。


やっぱり、あの子が。

君の隣りで楽しそうに話していた。


私は後ろから。

只、眺めるしか無かったのです。


※※※※※※※※※※※※※※※


「じゃあ、お疲れぇ・・・」

駅で別れて私は帰路につく。


結局。

何も無かった。


花火は奇麗だったけど。

ずっと君の隣りには、あの子がいて。


お話もできなかった。


君の家は二駅先。

電車の締まるドア越しに、あの子が微笑んでいた。


あーあ。

・・・だ。


ぐずぐずと無駄に時間をかけて。

駅からの道を歩いていた。


大人なら。

やけ酒だろうけど。


今夜は。

やけ、アイスクリームかな?


コンビニに入ろうとした瞬間。

声が聞こえた。


「待って・・・」

忘れようもない、大好きな声。


「戻ってきちゃった・・・」

微笑む君。


白い歯が。

私の胸をキュンとした。

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