第2話

ブームの頃から興味はあったけどコンビニのものくらいしか飲めなかったタピオカドリンクを飲みに行った。


人混みが怖くてブームを避けたのに、新しいだけあって、それなりに人集ってはいた。


それでもスタバに入るよりはマシだったからこれも訓練、と列に加わる。


出てきたタピオカティーは紅茶とタピオカの味がした。


気負って行った割には、こんなものか、と思う。


失望も落胆もなく、徒労感だけ。


周りに目をやると、妹と同じ制服の子達がはしゃいで話しているのが見えた。


あまり似ていない妹のことを想う。愛らしい顔立ちに、きちんとした化粧。何を着ても似合うのに選び抜かれた服装。


――妹だったら。


特に何の気負いも引け目もなく、こういう所に来られるのだろうか。


髪がぼさぼさしていないかとか、服が皺になっていないとか、話し相手がいないとか、そういう下らない悩みに捕らわれず


友達とおいしくなかったね、などど話して軽やかに去っていくのだろうか。





家に帰った後、パソコンでSNSを開いた。


一応写真も撮ったが、載せる為ではない。


自分の味覚がが平均なのか、外れているのか確かめたくなったからだ。


店の名前や、引っ掛かりそうな条件で検索を掛ける。


女子を中心に、映える写真がたくさん出てくるが、友達と行って楽しかった、キレイだったという感想がほとんどを占め、味に関するものはほとんどない。


その内、店が仕掛けたらしいタグを見つけ、そちらの精査に移る。


最初の検索結果と似たようなものだ。


「うわ」


と。急に火力強めの罵詈雑言の並ぶ投稿が目に入った。


「お店のハッシュタグでそこまで言わいでも……」


読み上げるのもはばかられるような文言に、思わず興味を惹かれる。


――コイツ、どういうヤツなんだろ。


ホームに跳んで普段はどんなこと言ってるか見てみる。


「フゥン」


どうやら常に筆舌を尽くした悪口をバラ撒いているワケではないらしい。


だが、何か逆鱗に触れると激しい一面が露わになるらしい。


「漫画の趣味は悪くない……」


メインになっているのは日常の愚痴と漫画の感想だ。大体ちょっと暗めで、マイナーで、マニア向けのうやつを誉めていて、だいたい……というかほぼすべて私の本棚に揃っている。


後は学校の友人の悪口。面と向かって言えない感情の処分場と言ったおもむきだ。


なんとなく、ざわざわした、収まりの悪い気分を感じながら、でも目を離せず、画面をスクロールしていく。


「あ……」


そうして見つけてしまった。何の変哲もない投稿。漫画の新刊を特典付きで変えたことを写真をアップして報告しているだけ。


だがその写真に、見切れているものが問題だった。「キリングキリン」のぬいぐるみのあんよだ。ゾンビ化したキリンのマスコットで、あんまり不気味だから、すぐ店頭から姿を消した。


店で見なくなったタイミングで妹が欲しがって。市外まで探しに行って。たまたま買っていたテイで贈ったのを覚えている。


数少ない、お姉ちゃんらしくできたことだったから。


そうすると今まで読んできた投稿が全て、自動的に妹の声で再生されていく。


そうだ。この語彙は。この言葉選びは。


口論になった時の妹のものだ。

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