第3話
夜も更けてのこと。部屋のベッドに寝転び、ぼんやりスマホを眺めていた。
――やっぱり消そう。
画面にはSNSのマイページで、昼間行ったタピオカ店をめちゃくちゃにけなした自分の投稿が映されている。
感情的になり過ぎた。姉を見つけて動揺した八つ当たりをタピオカ店にしているようなものだ。
特段おいしくはなかったがきわめて悪いという程でもない。
ストレス発散の為に作った裏のアカウントだったが、タグまでつけて他人の商売まで邪魔するのはやり過ぎだ。
自責の念で、逆にストレスを溜めていては本末転倒も良い所だ。
炎上しようものなら傷はますます深くなる。
そもそもは目立たず、表では絶対言えないことを吐き出す為のものなのだ。
フォロワーもほとんどいないが表示数はジワジワ伸びている。
削除ボタンを押した時、遠慮がちにノックの音がした。
「なに!?」
我知らず、声が荒くなる。
親はもう寝た時間だ。姉は用があるといつもこの時間に訪ねてくる。
「今かまん?※」
「かまんけど何?」
特に不機嫌でもないのに、私の声は荒い。親にも友人にも出さない声で。あるいは。
あるいは、ひょっとしたら、姉に甘えているのかもしれない、と、ふと思った。
おずおずとドアが開く。
「何?」
『何』しか言ってなくない?
「このアカウントやけど」
さっと血の気が引いた。
「それが?」
何とか顔には出さずに堪えられた……そう思っても姉の目の色がいつもと違った。
「あんたのやろ」
言い逃れしようと思えば、まだ出来る、とも思う。どの程度アタリを付けられているのか、もう少し駆け引きできる、とも思う。
しかし、さっきの僅かな動揺を見抜かれてしまった苛立ちが、私の冷静さを奪っていた。
「それがどしたんよ?」
「いや、やけんさ、」
煮え切らない姉の態度に、私はその先の言葉を待たずに噛みつく。居直るような言葉が、頭の中にさえなかった言葉が勝手に口から飛び出していく。
「バラされたくなかったらなんでも言うこと聞けとでも言いたいんかね!?」
姉の表情が固まった。
停止した表情の中で、目の色だけが変わっていく。
「……そうよ」
聞いたこともないような声だった。
お姉ちゃん、そんな声出せたんだ。他人事のように考えていた。
「じゃ。また連絡するから」
どんな? なんの? そう聞く暇もなくドアが閉められた。
私は姉が出ていった時のままの姿勢で、ずっと動けないままでいた。
※伊予弁でかまわないか? といった意
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