姉 妹のくらがり
友里一
第1話
小学校から中学校に掛けて、私の姉は教室でも部活でもみんなの中心に居た。
そんな姉に学んで、今では私がその立ち位置に居る。
反面教師としてだ。
私に言わせれば姉は中心に居座っていたのだ。
甘やかされて育ち、わがままで、気分屋で、強引。
顔が良くて、明るくて、華がある姉には一種のカリスマがあるのだろうとは思っていたが、それも人並みのもの。
いつまでも続くまいと思っていたら高校に入るなり、一年もせず保健室登校が始まった。気分の悪い時はひきこもりだ。
スピード感えぐいて。
姉が連れ回しているお姉様方に混じって遊ぶ時、常々思っていた。
ーーそんなこと言わない方が良いのに。
ーー今の話もっと掘り下げて聞いてあげたら良いのに。
ーー髪型変えたのアピってんじゃん。触れてあげれば良いのに。
ーーこういう相手にこういう話題は避けた方が良いのに。
教えてあげれば良かっただろうかと少し思うこともある。
言った所で聞く人じゃないとも思う。実際先生やお母さんは折に触れてそういう大事な話をしていたが、高校入って自分で気づくまで変化はなかった。
気付いたからってヒッキーになってんだから詮のない話だ。
姉の振る舞いから学んで、お姉様方相手に演習して、同級生相手に実践したら容易く姉と違うやり方で姉と同じ立ち位置に居た。
満員の席に図々しく割り込むように座ったのではない。
皆から請われ、選ばれ、中心に座ったのだ。
姉のお陰だ。
ありがとう!!! お姉ちゃん!!!
何より私の努力がモノを言った訳だが。
コミュニケーションだけではない。
姉のように綺麗なまっすぐの髪じゃないからアレンジに気を遣い。
姉のようにパッチリの二重じゃないからメイクに気を遣い。
姉のように恵まれたスタイルじゃないら着こなしに気を遣って今がある。
努力で勝ち得たものだ。達成感半端ない。
にも関わらず、どうにも満たされない。
スカッとしないモヤモヤを抱え、私は日々を過ごしている。
しかしそんな感情はおくびにも出さない。
中心に居る者として、相応しくないから。
「ねぇねぇねぇねぇ、久々にタピらん?」
――久々レベルの問題ではない
そう心掛けているからこそ、こうしてお誘いも来る。
声の主は同じグループのめぐみさん。典型的なP.A.R.T.Y.Peopleだ。
「今更!?」
私の前に真弓さんが声を上げた。ギャルでありつつ、はしゃぎ過ぎると止められなくなるめぐみさんの御目付役的存在である。
「今更だからオモロなんじゃん! マリトッツォも食えるってよ〜!」
「なんで絶滅危惧種と絶滅危惧種合わせるんだよ……」
私が口を挟む前に真弓さんの突っ込みが飛ぶ。
「行ってみよか」
「マ!?」
「博物館みたいで面白そうやんか」
私の鶴の声で、その店に向かうことになった。多数決とも言う。
件の店はフードトラックいわゆるフードトラックで、
テーブルやイスも屋外に並んでいた。
それだけ見ればオシャレな当代風だ。
「お、ナウくね」
「言うほど物珍しくもねーしどっちかつーとその言葉をこそ博物館入れた方がいいだろ」
空いた席につき、各々注文したものを口に運ぶ。肝心の味はというと。
「ん~~~~」
言いづらそうなめぐみさん。
「微妙くね……?」
ごくごく小声で、真弓さん。
不味い、というワケではない。しかしブームの後にわざわざこれで勝負を掛けようと思った理由は見当たらない。そんな味だ。
――考えるな。
そう思った時はもう遅い。
もし姉が。
もしも姉が周囲の助言忠言諫言を早いうちに聞き入れ、カリスマ性や明るさはそのままに成長していたら。
こういう時でも、空気を壊さず、言いたいことを正直に、自由に言えたのではないか。
めぐみさんの面子も潰さず、自分の味覚にも嘘をつかず、
こうした時につい考えてしまう。
その時、今一番会いたくない人の姿が視界を横切った。
声を上げることも、表情を変えることも、タピオカを噴き出すことも耐えきった自分を誉めるべきだろう。
――なんでこんな所にいるのよ……姉さん!!
「ちょっと……」
「どしたのまだ一口目で!?」
まずい。まずいと感じていると勘繰られるのがまずい。
「ちょっと用事を思い出して……、ごめん、私先にお暇しよわい」
多少わざとらしく見える程、タピオカを勢いよく吸う。
「慌てなさんなって。人気者は大変だよな」
真弓さんが好意的な意見をくれるのに甘えて、愛想笑いで席を立つ。
姉の死角を選んで速足で立ち去る。
――やましいこともないのに。
だが、級友たちの前で、姉と鉢合わせてペルソナをバグらせるようなことは断じて避けなければならなかった。
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