第7話 土曜日 変わる日
今日は部活も休みで、のんびりしていたらカンナからメッセージが来た。
{花火鑑賞のドレスコードは浴衣だから}
「めんどくさ」
また余計なことを思いついてくれた。
でも、まあ、いいか。
母に言って父の浴衣を用意してもらった。
カンナと行くと母に話すとなんか妙に嬉しそうだった。
6時に近くの公園で待ち合わせ。
ここにも屋台が並んでいてまあまあの人手。
前に有名な大きな花火大会を見に行ったことがあったが、その時は凄い人混みで移動が大変だったけど、それに比べたらほどよい。
そんな気はしていたが浴衣着てくる人なんてあまりいない。
特に男は。
視線を感じる。
思ったより暑くはないが、やはり動きにくさは感じる。
たまには良いか。
メッセージが来た。
{ブランコのとこにいるから}
「あっ、レン。
来るの遅い」
目が良いな。
20m位離れているんだが、また大声で注目されている。
わざとゆっくり近づく。
「女子を待たせて、何たらたら歩いているのっ
浴衣じゃなかったら一蹴」
「浴衣で良かった。
声がでかいんだよ」
「えいっ」
「イッタ」
すね蹴りしてきた。
下駄で。
俺はかがみ込んで悶絶した。
「今週はずいぶんとけってくれたな。
尻はまだ違和感があるんだけど」
「女の子に蹴られたくらいで男がグチグチ。
歩くのがつらくてもやせ我慢するものよ。
そういうのが日本男児じゃない」
「昭和だな」
「ふっ」
バンッ
「うっ」
肩に正拳突きしてきた。
衝撃で視界がブレる。
「せめて手加減しろって」
「してるわよ
ふっ、は7割くらいだから
ハッ、が出たら病院行きだからね」
スマイルウィンク。
それだけ見ればかわいいんだが
「道場行ってくれ」
「敵がいないからやる気でないのよね。
私、優しいし
対人競技はね。
その点陸上は全力で出来るから」
「そうですか」
「レンが私に運動させているんだから。
もっと気をつけてくれる」
「・・・」
俺が悪いんだな。
奴の尺度では。
「ちゃんと浴衣着てきたわね」
「そんな気がしていたが、男で浴衣着てる人少ない」
「良いじゃない」
「視線を感じるんだが」
「大丈夫よ。
似合っているから」
「そっ、そうか」
思わぬ褒めで動揺してしまった。
「私のも良いでしょ」
「馬子にも衣装と言いたいところだけど、ホントに良いと思うよ」
「良かったわね。
顔殴りそうだった」
「良かったよ。
まあ、カンナは元が良いから何でも合うと思うよ」
「なっ、何言ってるの」
カンナは動揺している。
さっきの仕返しだ。
「さて、まずは金魚すくいからね」
金魚すくいの屋台に行くと、店のおじさんがすぐにポイを渡してくれた。
そう、こいつは無料で金魚すくいが出来る。
取り過ぎるから。
子どもの頃、持参の洗面器に次々と金魚を移していく。
それを見る人だかりが名物だった。
俺も練習してみたがあいつのように出来るわけがない。
最近は数十匹で金魚返してるようだが、今でも子どもの羨望の的だな。
「まあ、こんなもんかな。
レンはやらないの」
「いや、いい」
なんか申し訳ないというか。
いろいろな意味で出来ないな。
たこ焼き、フランクフルト、カステラなど食べて、花火の上がる池へ行く。
暴力を忘れてしまえるくらいにカンナと居るのは楽しい。
だいぶ暗くなってきた。
並んで池の柵にもたれて花火を待つ。
「レンと一緒に花火見るなんて何年ぶり」
「小学校低学年以来じゃないか」
「二人だけって初めてじゃない」
「そうかもな
俺たちも成長したな」
「何言ってるの」
二人笑った。
花火が上がる。
ドンッ
おなかに響く音。
巨大な花が夜空に咲く。
大きな花火大会のに比べれば少し小さめだとは思うけど、久々に間近で見る花火は迫力があるし綺麗だ。
花火が途切れたところで
「綺麗ね。
私、花火好きかも」
「そうだな」
ヒカルがすり寄ってくる。
髪の匂い。
暖かさ。
「よっと」
脇の下に潜り込んできた。
ずっと離れていた距離が、一気に近づいた。
顔が近づく。
「初デート定番の鑑賞系って、デート向きじゃないと思うのよね。
映画とかコンサートとか話できないじゃん終わるまで。
花火も」
まったく、こいつは。
「今言うことか」
俺はカンナを抱きしめていた。
そしてカンナも。
「俺達ずっと好きだったんだ」
「私達ずっと好きだったんだ」
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