第5話 木曜日後半 カンナの涙
駅を出る。
今週カンナを意識して少しゆっくり歩いていた気がするが、今日は気がつくと速度が上がっている。
事実会いたくないが、先延ばしにしてもしょうがない。
努めて歩速を抑えていると来た。
「レン。
お疲れ」
「 お疲れ」
ビクついて一瞬反応が遅れたが、多分、身体の硬直は気づかれなかったんじゃないかと。
「どうだった」
「何の話だ」
「とぼけて。
さっき校門のとこで先輩と話してたでしょ。
先輩来るって?」
ああ。
見られていたか。
幾つかプランが消えたな。
とにかく下手なことを言うより命を最優先で!
「レン、聞いてる?」
「二人で行けばいいと言われた」
「それで?」
「それで?」
「それでレンはなんて言ったの?」
すでに怒りを感じる口調だった。
そう来たかと。
「そっ、それが先輩は俺たち二人で行った方が良いと・・・」
「で?」
「で?」
「いちいち、質問返さないでくれる。
続きを聞いてるのよ。
それくらいわかるでしょ」
何でこいつこんなに切れてるんだ。
当然の結果だろ。
なんかムカついてきた。
「お前な。
人にいろいろやらせといて何、切れてんだよ。」
当然の結果だろ」
「切れてないから
えいっ」
パンッ
「んっ」
蹴りが来た。
そこまで重くはないが、こいつに蹴られたのは久しぶりだなと思った。
街中での出来事で注目される。
まあ、確かに切れていたら病院送りにされるだろうなと。
「だめだ。
もう、話は明日だ」
「逃がさないから」
腕を捕まれた。
小さい手だが力は強い。
こいつに触られるのもいつぶりかなとか思って少し嬉しくなってしまう自分がいたが、これを振り払おうとするとまた大変なことになることはわかっている。
安全第一で。
「放していただけますか」
「なに敬語になっているのよ」
手が離れた。
少し冷静になったか。
「ちゃんと先輩に話した?」
「ちゃんとって何だよ。
昨日の話の通り話したぞ」
「はあ。
レンに頼んだ私がバカだった」
「だから言っただろ。
相談相手が違うって」
「ふっ」
バンッ
「イテッ」
先ほどと違って破壊力のある蹴りで声が出た。
「私の心はこんなもんじゃないから」
そう言ってカンナは走って行った。
声震えていたな。
本気で俺に期待していたのか?
少し悪いことをしてしまった気がしたが、考えてみると何も悪くないんじゃないかと。
やはり、ヤバい女だなと。
しかし思いっきり蹴りやがった。
この感じ、軽く腫れるんじゃないか。
まあ、命はあった。
上出来じゃないか。
日課を済ませて布団に入る。
なんか何も手に着かなかった。
久々にケンカしたな。
一年ぶりくらいかな。
昔に比べれば少なくなった。
尻に痛みを感じてうつ伏せになる。
あいつは脚が出る。
テレビとかでよく見かけるのはビンタだが、あいつの場合ビンタというか体重の乗った掌底になるのが想像付く。
顔面はヤバい。
回し蹴りの方がまだましか。
昔はケンカ慣れしていてすぐに忘れられたが久々だとな。
だが、ケンカするのってカンナとだけだ。
ケンカしても大丈夫な相手。
あいつどう思っているのかな。
もっと考えて先輩と話せば良かったか。
最後泣きそうになっていたか。
いや、俺が悪いわけじゃない。
いつの間にか眠りに落ちた。
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