1章 配管工のおしごと8
「大丈夫?」
勢いを増す礫の雨の中で、クローネは心配そうにグスクを見つめていた。
鉄板を支えるのは彼だ。容赦のない衝撃を一身に受けても涼しい顔を崩すことはなかった。
「大丈夫、ぅあちっ!?」
そのグスクが突然悲鳴を上げていた。その挙動に手が離れ、身体に押された鉄板が逆へと傾きかけていた。
反射的に伸ばしたクローネの手が、倒れかけの鉄板を掴むことに成功する。
……結構、きついじゃん。
大小さまざまな石が雪崩のように襲い掛かる。鉄板から伝わる細かな振動に早くも手首にしびれを感じていた。
「どうしたの!?」
「石が、ほら」
背中をまさぐっていたグスクが手を差し出し、グローブをした拳を開く。中から現れたのは小さな灰色の石だった。
表面に細かくあいた気孔は急速に冷えたことを示している。見た目は何の変哲もないただの石だがまだ周囲に陽炎を作る程には熱を持っていた。
それが運悪くグスクの背中に入ってしまったようだ。そんな間の抜けたところがらしいなと、クローネは噴き出して笑う。
水晶のように透き通る笑顔にグスクも同調して笑みを作っていた。
「ねえ」
クローネは聞く。先程の疑問が解消していなかったからだ。
何だ、と答えるグスクに、
「なんで頑張れなんて言ったの?」
「それ今聞くことか!?」
今も何も、いつ聞いてもいいことだろうに。
溶岩降り注ぐ灼熱の街で、二人は見つめ合う。
グスクは喉に小石が詰まったように言い淀んでから、
「──から」
「えっ、なんて!?」
その声は周囲の騒音に掻き消される。街全体を使った大合奏は普段の声では相手に届かせない。
クローネが声を張り上げると、弱気を口から息に乗せて吐ききったグスクが大口を開けていた。
「初出場が一番死にやすいんだ、心配したっておかしくないだろっ!」
「うるさいっ!」
耳元で殴るように叫ばれて、クローネも負けじと声を張り上げる。
そしてグスクの襟首を掴んで思いっきり引き寄せた。
「ありがと、今夜は絶対勝つわ」
「おう、死ぬなよ」
縁起でもないと、軽く額をぶつけながらクローネは手を離す。
似合わないことをしたとグスクは熱に侵されたように顔を紅潮させている。慣れないことをするからだと、クローネは愉快そうに喉を鳴らしていた。
身体の芯が熱い。この感情は喜びであるとクローネは素直に受け入れていた。
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