【テンプレその七】残酷にもその日はやってきた
憂鬱な夕食はね、気がついたら終わってたよ。不思議だね。そして爆睡をかましたら、すぐに次の日がやって来た。
「とうとうだね」
「そうだな。準備はいいか?」
「もちろん」
「「家庭教師からほどほどに全力で逃げるぞ!!!」」
さてさて始まりました、家庭教師からの脱走チャレンジ第一弾!
「実況はわたくしシキと!」
「解説のトキがお送りします!……じゃなくて!俺らは選手側だろうが」
ツッこんでくれてありがとう。君、お笑いの才能あるよ。さすが私の弟だね。
「とりま庭に隠れるぞ!」
「了解しやした親分」
「選手設定どこにいったんだよ」
ここで、庭で草むらに隠れるときのポイントを伝授しよう。それはズバリ、頭を隠して尻を隠さないことだ!このことにより、隠れようとしてるけど隠れられてない阿呆を演出できるよ。みんなも是非やってみてね。
「これが、ほどほどに全力で逃げるってことなのか」
「そうゆこと」
「ところでさ」
「どうしたんだい弟よ?」
「背後に気配を感じねえか?」
「奇遇だね。私もだよ」
ゆっくりと頭を後ろに向ける。冷たい空気が頬をなでる。そこにいたのは、私たちより少しだけ年上の男性だった。そして、私たちがよく知る男性であった。そう、その正体は家庭教師なんかではなく──。
「「兄!?」」
我らが腹黒敬語お兄様が立っていたのだった。
「お二人とも、これからどうなるかはお分かりで?」
冷気を発しながら暗黒微笑を浮かべる兄に対して、私たちはただコクコクとうなずくことしかできなかった。
ところ変わって執務室。私たちはありがたーい兄の説教を聞いていた。こんなに説教に時間を割いていたら、いよいよ授業の時間がなくなるのでは。
「ご心配なく。あなた方が逃げることを予測して、嘘の時間を伝えましたから。家庭教師の方が来られるまで、まだ時間の猶予はありますよ」
この兄、またしても心を読みやがっただと。怖すぎる。何でわかるんだよキッショ。
「勿論、逃げるなんて馬鹿なことはもう考えないでくださいよ?次に逃げたら、いくら温厚な私でも……、まあ後は想像にお任せします」
オンコウ?まさか、温厚のことなのか。兄は一度、温厚という言葉の意味を辞書で引いてほしいものだ。ついでに、慈悲の心も手に入れてほしい。
「とにかく、真面目に授業を受けなさい。くれぐれも恥を晒さぬよう。そして、家名に泥も塗らないでくださいね」
やはりこの兄、温厚などではないだろう。ただの腹黒野郎である。まあ、今まで放置されていた私たちに教育を施す程度は、情があるようだけど。本当に興味がなければ、捨て置くタイプの人間だろうし。
「こちら、今日から教育をしてくださるカテーキョ夫人。挨拶しなさい」
え。いつの間に現れたの。気がついたら目の前に女の人がいたんだけど。瞬間移動でもしたのか。怖い。そして何より。
『カテーキョ夫人の名前さ、』
『家庭教師を略して文字ったみたいだよな』
『ね、名は体を表すってこのこと?』
「挨拶しなさい」
ごめんなさい。今すぐ挨拶します。
「「ごきげんよう……?」」
作法がわからない。というか、それを教わるのも含めて家庭教師を呼んだんだろうけど。
「ごきげんよう。これからよろしくお願いしますね?」
オホホホホと笑うカテーキョ夫人。腹の内が読めない人がまた増えた日であった。
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