【テンプレその三】ニート生活の終わり
そして今日も今日とて夕食タイム。我が家は腐っても伯爵家であり、貴族だ。そのためかとんでもなく長いテーブルを囲って一家揃って夕食をとる。この時間の気まずいこと。せめて脳内だけでも楽しくしないとやってられない。
ということで、イカれた一族のメンツを紹介するぜ!
エントリーナンバー1!父!クズ。使用人からの人望はゼロ!以上。あ、口を開けて食べるしクチャラーなのを言い忘れてた。
エントリーナンバー2!兄!次期伯爵、常に敬語を使う腹黒眼鏡。父の数億倍優秀で、最近では実務はほとんど兄がやっている。ヒエラルキーの頂点の人物だ。てか食べ方めちゃくちゃ綺麗だな。
エントリーナンバー3!義母!父の後妻。虎視眈々とこの家の財産を狙っているぜ!
エントリーナンバー4!義妹!義母の連れ子。縮こまって食事をしている。それもそうか。ここ、重たい空気すぎて気まずいもんね。誰も一言も話さないし。
エントリーナンバー5!私達双子!言うことは特になし。
……ネタがつきてしまった。暇。
『トキ!暇!!一発ギャグ言って!』
こんなときに便利なのが以心伝心である。脳筋女神様がルーレットをとめて出てきた、あのテレパシー能力だ。
『俺は今、いかに綺麗に利き手と逆の手で食べれるか挑戦してるから無理』
『チェッ。ケチだなぁ』
『テレパシーで舌打ちすな。頭に反響してうるせえよ』
『納豆食べたーい』
『話変わるの唐突だな』
『だって最近、納豆でてこないじゃん』
『ま、一応あれは嫌がらせの一環だったしな』
『私達が図太すぎてなくなったのか。もっと悲しめばよかったのか……?』
今では、嫌がらせの類いは無くなっていた。日々の彩りが無くなってしまったのである。
私達の態度は勿論、原因はもうひとつある。兄だ。嫌がらせなんて伯爵家の風格が下がる云々とか言ったからなあの人。外聞を気にしてるのか私達への善意かは知らないが。正直、ありがた迷惑だ。納豆が食べれなくなった。これは由々しき事態だ。
『かといって、自分で納豆を作ろうとも思わないしなぁ』
『和食を転生先で作るとか、テンプレすぎて嫌だもんな』
『それな』
あくまで、たまたま腐った豆が納豆だったのならいいのだ。正確には納豆もどきだが。しかし、自分で作る行動は、テンプレそのものである。それだけは避けねば。
「シキ、トキ。食事の後に執務室に来てくださいね」
今まで無言だった空間に、兄の声が響く。
『え、何。私達何かやらかした!?』
『俺は全然記憶にないぞ!一体何が起こるんだ!?』
軋む廊下を歩き、執務室に向かう。ここは歴史ある伯爵家。よく言えば古く趣のある、悪く言えばボロい。
そして執務室にたどり着いた。コンコンコンとノックする。二回ノックはトイレノックだから絶対やらない。本当は四回するべきだった気もするけど、この世界のマナーなんて知らないし、ノックが多すぎてやかましいとも思われたくはない。
「入って良いですよ」
「「失礼します」」
そこには、笑みというか暗黒微笑を浮かべた兄がいた。目の錯覚だろうが、黒いオーラが出ているようにも見える。
「単刀直入に言いますね。そろそろ勉強をしろニートども」
「「!?」」
今、とても衝撃的な言葉を聞いてしまった。
『敬語が崩れてる!!』
『何!?天変地異!?』
まあ、私達は絶賛引きニートだしぐーたら生活をしてたもんね。
「コホン」
うっわあ、わざとらしい咳払い。
「最近、私が実務を担っているのは知っていますよね?」
「「…………はい」」
「教育を受けさせるのは保護者の義務、受けるのは子供の権利。だというのに、支出入を見る限り、あのクソジ……ではなく父上、教育費を全くかけてない」
口調ブレブレだなおい。
「ということで、二人には家庭教師をつけますからね」
「「ゲッ」」
「せめて取り繕え」
マジで口調ブレブレだな。てか、義妹にはつけないのか?
「ああ、あの子は向上心に溢れていて、自主的に色々していますから。魔法の練習で庭を爆破したのは頂けませんけど」
そう言って遠い目をする兄。義妹、恐ろしい子。でももっと恐ろしいのは、私の心の疑問に答えていた兄である。女神様と同じで読心術か?
「それに、15歳になる来年からは学院に通ってもらわなければいけないので。一年間での詰め込み教育になりますね」
「「うっ」」
「あ、学院に通わないという選択肢はないですからね?あそこを卒業しないと、貴族の一員としては認められませんし」
「「うっっっ」」
「学院でなめられないよう、そして我が家の品格を落とさないためにも、ちゃんとしてくださいね」
勉強……したくない……面倒くさい……。暇じゃなくなるのはありがた……くもないし。
「それに、学院を卒業してからじゃないとまともに仕事をさせられませんし」
『もしや、卒業後はこき使われるのか!?』
『この兄ならやりかねんぞ』
「働かざる者食うべからず、ですしね?」
こうして、圧迫面接()は終わったのだった。
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