side:神原 彰
あいつとの出会いは至って普通、どこにでもあるようなものだった。
オレは小さなころロックバンドが大好きで家に楽器が無かったから歌を沢山練習してきた。
高校に軽音部があるってことを聞いた時は本当に嬉しかった。
憧れ、夢だったバンド活動の始まりだと。
中学時代、カラオケでオレより上手いやつなんていなかったし、オレ自身もバンド活動を始めたら歌で皆を引っ張っていけると思っていた。
だけど。
……出会ってしまったんだ天才に。
二週間の体験入部を終え選択を迫られた。
自分たちでバンドを組むか、先輩のバンドに入るか。
もちろん選んだのは前者。
オレが引っ張っていきたかったから。
だから当時入部したメンバーに声をかけてバンドを結成した。
その時に出会ったのが
バンドにおいてギターは切り離せないもの。
経験者である彼をオレは説得してバンドに入ってもらった。
そしてバンドの成長記録を撮ってSNSで拡散。
持続的について来てくれるファンの獲得を狙っていた。
そんな夢を持っていた。
蓋を開けてみると動画としての反応は最高だった。
ただ、オレの夢とは程遠い物だった。
動画に残されたコメントは全てギターについて。
空奏 響だけに向けられたものだった。
でも、それは動画の撮影時に気付いてはいた。
それくらい彼のギターは圧倒的なほどに上手かった。
いや上手いだけじゃない、魅力的だった。それにオレ含め皆が飲まれてしまった。
動画を見た第三者からの反応がオレの夢、憧れ、理想を砕くには充分だった。
だから彼に拒否反応を示した。
ずっと夢だった、憧れだった。
彼がいる限り、彼の音楽を否定しない限りオレの理想は砕かれたまま。
「うるせぇ!人に合わせられない人間なんか軽音部は要らねぇんだよ!一人でやってろ!」
だから軽音部から追い出した。
後で考えると酷く自己中心的な考えだった。
だけど後悔はしていない。
これはオレがオレであるために必要な事だったから。
そこから一年半。
二年の時には変にオレを盛り立てようとする変わった双子がメンバーに入ってきたりはあったが、憧れのバンド活動を続けてきた。
オレ自身、皆を引っ張っていけるように歌を磨きバンドとしても呼ばれることも多くなった。
そんなある日、オレはライブハウスの下見をしに来た時に見てしまった。
音楽活動をする空奏 響の姿を。
上手く顔が見えない様に工夫をしているようだったが演奏を聞いて一発で分かった。
相変わらずの音楽センスを叩きつけられ、それに答えるボーカルに圧倒された。
そんな自分に腹が立った。
結局、一年半前と変わってないじゃないかと。
今でも魅了されたままじゃないかと。
だから自分の心にけじめをつけたかった。
改めて否定したかった。
今度は口だけでなく音楽で。
今から始まる彼の音楽をオレは正々堂々と受け止め跳ね返してやると。
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