第46話:ライブの始まり


 ステージに立ち大きく息を吸う。

 そして。


「ふぅ……」


 吐く。 

 自身の意識を傍目に映る空色髪の少女マイバディに向ける。

 

「!!」


 俺の視線に気づいたのか気まぐれかは分からないが歌乃かのは軽くピースをする。ステージに立つのもかなり慣れてきたのが分かる。

 後は俺達の音楽をぶつけるだけ。


 ただ、フロアに居る観客は軽音部ではない俺達の登場、知らないユニットの登場に動揺が走っていた。


「え?あれ誰?」

「顔も全然見えないし分かんないよ」

「数合わせかな?」


 まぁそりゃそうだよな。

 ステージまで届く声は想定済み。

 それらを音楽で塗り替えに来たのだから。

 観客の感じているマイナスをプラスに。

 

 横に居るマイバディがそのブラウンの瞳で俺に視線を飛ばす。


『それじゃ始めよっか。ボクに喰われないでね?』


 視線だけで覇気すらも感じる。時折現れるゾクッとする彼女の圧。

 

『それはこっちのセリフだ』


 今更マイバディに喰われるわけにはいかない。

 俺は全てを賭けに来た。

 全力で。


 横に居る歌乃がマイクスタンドからマイクを手に取った。

 右手にマイク、左手の指にマイクのコードをかける。

 

「フロアの皆!初めまして!」


 返事はない。

 しかし、彼女には関係なかった。


「君たちのこと絶対満たしてあげるから期待してイイからね!!」


 一方的に軽く煽る言葉を残す。

 突然のマイクパフォーマンスに動揺が走るフロア。そんな中、この状況正すかのようなの拍手が聞こえた。

 ステージ上の俺にはそれが誰か直ぐに見つけることができた。


 にいなさんとことの二人。

 目が合う。

 そのことを軽くジャンプするかのように喜びを表現するにいなさんを少し恥ずかしそうに琴が抑える。

 二人の起こした拍手は段々と伝播していき、歌乃のマイクパフォーマンスに応えるような形になっていた。


 場は整った。

 

 披露するのは俺達が初めてステージに立った時の曲。

 

 隣にいる少女のブラウンの瞳と視線が繋がる。


『行こうかマイバディ』


『あぁ、始めてくれ』


 一秒にも満たないアイコンタクト。

 俺達にはそれで充分だった。


 始まりは歌乃のアカペラから始まり、それを俺が追いかけていく形。

 追いかけるだけではダメだ。追い越す勢いで行かないと。

 隣の少女のブレス息の音をマイクが拾う。

 彼女のブレスの音がざわついていたフロアを静寂にし、皆を今から始まる演奏に飢えさせる。

 観客の視線が俺たちに集まる。


♪~

  

 歌が始まる。まだ演奏しない俺にはステージを見るフロアの観客がどんな顔をしているのかが良く見えた。

 皆、時が止まったかのよう。あの時の俺と同じ。

 歌乃の歌に魅了されている。



 さてと。

 ここからは俺が場を塗り替えていく番。

 魅了される観客に追い打ちをかけるように俺のギターをぶつける。

 コーラスに使うマイクスタンドの高さを軽く確認して軽く息を吐く。

 今日は初めからピックは使わない。

 指をこれから走るダンス会場弦の上の添える。


 そして。


「!?」


 違和感が電流のように身体を走り抜け寒気が襲ってくる。

 冷や汗が溢れ出し、心臓の音が早くなっていく。

 なんで。

 リハーサルの時は出たのに。

 なんで。

 なんで。

 

 

 

 !?

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