第44話:条件変更


「変更したいことってなんだよ」


 反射的に灰色の髪の二人に尋ねた。

 二人は何か企んでいるかのような笑みをこぼす。

 

「実はこのライブ、終わった後に投票があるんですよねぇ」

「部費の取り合いをするんですです」


「それがどうしたんだよ」


「その投票枠に先輩たちも入ってもらって神原先輩と僕たちのバンドより多く票を取れたら何もしません」

「写真のばら撒きもなしなし!」


「!?」


 何で今更……

 つまり実力勝負で良いってことなのか?

 でもあいつらの表情からして大丈夫なのか?


「解散って選択肢は無くなりますが、それでも僕たちが勝てば写真を公開しますよぉ」


「……それだけか?信用してもいいのか?もし守らなかったらお前たちどうする?」


「もちろん守りますよぉ。もし守らなかったら……」

「軽音部辞めますよ辞めますよ!」


 ここまで言い切るのか。

 というよりという縛りが無くなるならば喜ぶべきなのかもしれない。

 

「先輩にとっても悪くないと思うんですがどうですかぁ?」

「良い条件ですですよ!」


「わかった。そうしよう」


 てか俺達はいつまでトイレ前で話しているんだ。

 ふと周りを確認するとトイレを待つ人がちらほら。皆、俺達を邪魔そうに見ている。

 これだけは言わせてくれ、俺は悪くないぞ?

 

――――――――――


 響と別れた灰色の髪の二人は突き付けた条件の変更が上手くいったことに喜んでいた。


「希望があれば、それが無くなった時もっと心にダメージを与えられますからねぇ。……例の準備頼みましたよ?」

「任せて任せて!」


 二人は軽音部に与えられた控室に戻っていく。 

 今は笑っている二人がこれから起こる修羅場など知る由もなかった。


――――――――――


「前のライブハウスも良かったけど、ここのステージもボクは好きだね!」


「確かにいい所だな。リハーサルも簡単に終えられたし機材も比較的新しいのが多いからやりやすい」


「ね!!」


 リハーサルを終えた俺達は控室のソファに身を預けていた。

 ライブの順番は最後から二番目。 

 もちろんトリを飾るのは神原かんばら あきらのバンド。

 条件が変更になったとはいえ投票制の使用上、どうしてもトリに票が集まってしまうことが予想できる。

 ただの実力勝負になったとはいえ不利な状況には変わらない。


「二人ともリハーサルお疲れさん」


 控室のドアが勢いよく開くと同時に律貴りつきの声が飛んでくる。

 少し天井を見上げていた視線を音のした方へと向けた。

 

「律貴くん!ここのステージめっちゃいいね!!気持ちよく歌えそうだよ!」


「そりゃどうも。そういや響、ステージにあるシールドやら自由に使ってええでな?あと初めから置いてあるギターやら小物も」


「それじゃシールドだけ借りるよ。それに後の物は全部、律貴の私物だろ?あのギターとたまに練習用で使ってるやつだろ?」


「そうそう、ここやと置き場に困らへんから楽なんよ」


 そう言って律貴は少し笑う。

 囲む環境がアウェーでもステージ自体がアウェーではないのが本当に助かる。

 俺がそう考えている時、いつの間にか寄ってきていた律貴が俺の耳元で呟く。


「なぁ、あいつら例の軽音部やろ?大丈夫なん?」


「……大丈夫」


「まぁそれならええけど。ここは監視カメラも完備してるし何かあったら証拠出せるで言えよな?」


「そんな事ならないって」


 「ホントか~?」と少し疑うような表情を見せる律貴。

 というか本当であってもらわないと困る。

 俺は真剣なのだから。


「ねー?ボクに隠して何話してんのー?」


 横で少し頬を膨らました歌乃かのが俺の肩をペシぺシしている。

 痛くないけど、このって感じが凄くリラックス効果を生んでいた。

 きっと歌乃はいつも通りのパフォーマンスをしてくれるはず。

 後は俺が頑張るだけ。



 

 

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