第42話:出し切りたい時
「なぁ
「おれに聞かれてもなぁ……」
「弓道の的に当てる時とかさ」
「んー……」
先週来てないから二週間ぶりのミライズ広場のイベント。
俺達は並べられた仮設ベンチの一角に二人で座っていた。
例のライブまで残り一週間。時間は無いがこの実家のようなイベントにはなるべく出たい。だから午前中だけでもと思いミライズ広場にやってきた。
「琴ちゃん!ボクの伴奏してよ♪」
「ちょっと歌乃、いきなり抱き着かないでよ!……私の伴奏に合わせてくれるならいいよ」
「任せて!!」
俺と律貴が腕を組んで考えている中、視界に入るステージ前では見慣れた光景が広がり声が聞こえて来た。
午前中はまだ参加者も少ないので自由に歌ったりできるため歌乃の独壇場になっていることもよくある。
「逆に響さんよ。今までに手を抜いてステージに上がったことあるん?」
「……ないな」
「やろ?」
俺の横に座っている律貴の視線がステージに向いていく。
ステージでは歌乃と琴、そしていつの間にか巻き込まれたであろうにいなさん達による演奏が始まっており、観客が集まり始めていた。
「だから変に考えんなよ」
「……サンキュー」
そう言って律貴は軽く伸びした。
♪~
ステージから音楽が聞こえる。
琴のキーボードによる伴奏に安定感は言わずもがな数カ月前まで初心者だったにいなさんも見違えるほど成長としており、ステージを楽しんでいる様子が伝わってくる。
そして、それらを凌駕する歌声が広場を制していた。
数カ月前に比べ、ミライズ広場に訪れる人は明らかに増えている。
これも
この光景が俺の心に深く刺さる。
来週……
「ふぅ……」
大きく息を吐き青く広がる空を見上げる。
その空に二本の飛行機雲が平行線に伸びていた。
直後、何か視線を感じ辺りを見渡す。
「ッ!?」
見えてしまった。
広場に繋がる駅。その柱に二人の影。
灰色の髪をした似た容姿の二人がこちらを見ている。
ニタニタと笑っているその表情を俺の眼が捉えてしまう。
「律貴ごめん!俺もう帰るわ!!」
「え!?響、今日まだ一回しかステージに立ってないけどいいんか?」
「急用思い出した!歌乃にも言っておいてくれ!!」
急いでギターを背負い、この場を後にする。
見られて減る物ではないが何か嫌だ。
本当、歌乃には申し訳ないがこの場は逃げさせてもらう。
――――――――――
「ねぇ響くん。今日はなんで先帰ったの?」
「い、いやぁ……ギターの調整してたら弦切れちゃってさ」
「ふーん、そっか」
地下スタジオにて歌乃と合流し適当な嘘を吐く。
サポートメンバーはミライズ広場に残ってるから久しぶりに俺達二人になった。
最近の地下スタジオは大体騒がしくしてることが多かったので新鮮に感じる。
「もうすぐクリスマスだね」
「なんだよ唐突に」
「だって本当じゃん!」
来週のライブが終わった次の週だから間違ってはない。
まぁ俺がそんなこと考えている余裕がなかったのだが。
「きっと君はお父さんの事もあって忙しいと思うからさ、落ち着いたタイミングでパーティーしない?みんな呼んでさ!」
「……まぁいいんじゃないかな?」
「やった♪」
もう変に
楽しいこと考えよう。
どうなるか分からないけど。
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