第41話:いつでも聞くから
「まーた暗い顔してる。君、ホントに大丈夫?今週ずっとだよ?」
「大丈夫だって歌乃。それより来週のライブの準備は大丈夫なのか?」
「もちろん!クリスマスも近いし盛り上げなきゃ!!」
あの日の翌日、ライブに出るぞと伝えてから彼女は張り切りに張り切っている。
余程ライブハウスでのライブが気に入ったのだろうか。
ライブをするにあたって声をかけたのはバディである
俺は全力を以てライブに臨む。
だってこれが俺にできる唯一の抵抗だから。
全部飲み込んでやる。
「ほら暗い顔!」
「ごめんって。謝るから俺の身体揺らすなって」
前に回り込み俺の肩を掴んだ歌乃が勢いよく揺らす。おかげさまで俺の視界はグワングワンしてちょっと気持ち悪い。
まぁ彼女の言う通り暗い顔している場合ではない。
なぜなら明日からの土日はライブ向けて詰めていかないといけない。
無理にでも前を向かねば。
「……」
俺の言葉が通ったのか歌乃はピタッと動きを止めた。
そして、そのブラウンの瞳で俺のことを見つめる。
言葉のない俺達の間を冬の冷たい風抜け、一瞬時が止まったかのような感覚を覚えた。
ただ、その整った顔でいきなり見つめられると心臓に悪い……
「な、なんだよ」
「君が話したくないなら……いいけどさ。ボクはいつでも話を聞くから」
歌乃は前へと向きながら「この間も言ったけどね」と呟く。
あぁやって時折彼女が見せる全て見通したかのような表情。
何時になってもなれない。
普段とのギャップも相まって別人のように感じてしまう。
――――――――――
side:
うさ耳のフードが付いたもこもこパジャマに身を包んで鏡の前に立つ。
お風呂上がりで血行が良いのか、ボクの頬は少しだけ赤くなっていた。
「……」
最近
何かずっと思い詰めているかのような……
「……髪の毛乾かさないと」
鏡に映る自分自身に呟き手元にあったドライヤーを取る。
お風呂入って直ぐにケアを始めないと痛んじゃうからね。
そして鏡にスマートフォンを立てかけた。
スマートフォンの画面が明るくなり響くんと買ったボクのギターの待ち受けが見える。
「んー、きてないなぁ」
あれだけ言ったんだけどなぁ。そんなに言えないことなのかなぁ。
スマートフォンの画面にはゲームの通知など並んでいるが、その中のマイバディからのものは無かった。
無理に話して何て絶対言わない。だけど……
「ボクってそんなに頼りないかな?」
ドライヤーの風が温かい。
空色の髪が揺れチラチラと視界に入ってくる。
鏡に映る私に呟いた言葉が帰ってくるわけがない。
あくまでも自問自答に過ぎないから。
「私……分からないよ。君の責任感が許さないんだろうけどさ」
言ってくれないと伝わないじゃん。
響くんがあんな感じになってしまったのは確か補講の日。
君に何があったの?
コンコンッ
「歌乃?洗面台もうすぐ空くかしら?」
「あっ、ママごめんね!もう終わるよ!」
髪の毛はいつの間にか乾いていた。
ママの言葉で思考の海から引き上げる。
――――――――――
ベッドはふかふか。
そのベッドに座ってお気に入りのクッションの抱える。
ボクのお気に入りくつろぎスタイル。
スマートフォンの画面とにらめっこ。
分かってたけどマイバディからの連絡はない。
「ふぅ……」
分かってるけどスマートフォンの画面を確認してしまう。
もし通知がきたらノータイムで電話かけてあげるんだから。
もちろんボクらしくね。
「明日もう一度言ってあげるよ。……ボクがいるよって」
ボクの部屋の角に立てられた空色のボディが特徴のギター。
その隣に置かれたギターケースに付いているガラス玉のキーホルダーが部屋の電気に反射して光っていた。
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