第38話:遭遇


キーンコーンカーンコーン


 今日一日の終わりを知らせるチャイムが学校に鳴り響く。

 教室では月曜日ということもあって一日中ダルそうな表情をしていた生徒たちの顔も晴れ、各々の時間へと移っていく。


「やっと終わった」

「早く部活行こうぜ」

「家に帰れる……」


 学校という縛りから解放された生徒たちの声が飛び交いザワザワしている教室の中。


「……」


 その中で曇った少女が一人、俺の席の横で難しい顔をしていた。

 いつもの底無しの明るさは見る影もなく消えており、一瞬別人かなと思ってしまうほど。

 そんな少女を横目に何て声をかけようかと悩み、机に頬杖を立てていると我がクラスの委員長がこっちに来ている事に気がついた。

 

「歌乃?そんな怖い顔ずっとしてたら戻らなくなるよ?」


「琴ちゃん……だって怖いんだもん!向こう海外は補講なんて無かったし」


 俺と琴による土日に渡る歌乃のための補講対策講座……っと言っても主に琴が先生してくれていたんだが。

 結論から言ってしまうと手ごたえはまずまず。まぁ何とかなるかな?って感じである。

 

「まぁ何とかなるんじゃないか」


「ボクやれるかなぁ?」

 

「頑張って勉強しただろ?」


「……うん!ボク頑張ってくる!!」


 曇りの晴れた空色髪の少女の表情。

 歌乃が懇願した補講対策講座は、良い具合に彼女の自信に繋がっては要るようで何よりだと思った。


 ……ほとんど琴が教えたんだけど。


「それじゃ行ってくるね!」


「「いってらっしゃーい」」


 補講が行われる教室へ向かって少女が飛び出していく。

 ザワザワしていた教室も各々の行くべき場所に既に行ってしまったのか閑散としていた。


「ねぇ響」


「ん?」


「なんか格好つけてたのかもしれなけど勉強教えたの私だからね?」


「ワカッテオリマス、琴サン」

 

 寂しくなった教室も相まって琴の言葉が突き刺さる。

 彼女の言う通りだから俺は何も言う事が出来ない。



――――――――――


 琴も委員会の集まりがあるので早々に行ってしまった。

 歌乃が編入してきてから家の方向の事もあり、帰り道はほとんど一緒。というか歌乃が勝手についてくるの方が正しいかもしれない。

 このパターン俺が待つは初めてである。

 まぁ習慣になっちゃてるし変に一人で帰ったら絶対拗ねるだろうし。


「どっかで時間潰すか……」


 場所は……あそこしかないか。



 来たのはいつもの屋上。

 ちらほら吹奏楽部の子が練習していたりするがスペースはまだまだある。

 風が当たり少し寒いが傾いた太陽の光が当たることで和らいでいた。

 時間を潰すには個人的にちょうどいい。

 だって。


「おー見える見える」

 

 屋上に設置されている柵から少しだけ身を乗り出す。

 此処からなら色んなものが見える。

 グランドで走る陸上部。

 大きな声を出しながらアップしている野球部。

 遠征帰りなのか備品整理しているサッカー部。


「お?律貴みっけ」


 弓道場で弓道衣に身を包んだ律貴も見つけることもできた。にいなさんも近くにいる。

 

「しばらくこのままでいいかな」


 いつもの場所で落ち着いて居ようと思っていた。

 ただ何事もなくマイバディのことを待っているだけだと思っていた。

 できれば関わりたくなかった。

 というかから来るとは思わなかった。


「よう、空奏 響」


 名前を呼ばれて振り返る。

 そこに居たのは三人の軽音部。


神原かんばら あきら……」


 その真ん中、リーダーの名を呼ぶ。

 両脇の二人は見たことないから下級生の新メンバーだろう。

 



 神原 彰。

 この男こそ俺をバンドメンバーから脱退させた男。

 



 

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