4章:音と見つめる二人
第36話:うぅ…寒い
カシャ
「これであの人もきっと喜んでくれるはず…」
スマホのアルバムに映っていたのは制服の男女二人が少し大きな民家に入っていく瞬間。かなりアップして撮影された写真だったが二人の特徴はしっかりと捉えられており、分かる人が見れば誰かなんて直ぐに分かる状態だった。
これは美人で有名な編入生である少女が一人の男の家に入っていく瞬間だと分かるには十分すぎる写真である。
――――――――――
「さ、寒いよぉマイバディ……暖房まだぁ?」
「寒いなら足だすなよ。見てるこっちが寒いぞ」
学校終わり。俺の家。
地下スタジオのソファにてクッションを抱えながら丸まっている
「響くんは乙女の拘りってものを理解するべきだよ!」
「はいはい」
視線と共に送られる抗議を軽く相手をしながら、俺は壁に掛かった暖房のリモコンを手に取って室内温度の設定する。
修学旅行が終わってから早くも一カ月近く経とうとしていた。特に大きなライブはなかったが毎週あるミライズ広場のイベントには皆自由に参加していた。
その練習場所がこの地下スタジオということもあり、最近は何だか溜まり場になりつつある。
今日だって俺と歌乃が学校帰りにそのまま一緒に来たが、この後に委員会終わりの琴、部活終わりの律貴とにいなさんが地下スタジオにやってくる予定である。
つまり全員集合。
ピンポーン
「お邪魔します」
「おい琴。それチャイム鳴らした意味あるか?」
「一応必要でしょ?」
琴は「よいしょっと」という声を小さく呟きながら近くの椅子に自身の荷物を置いて、寒風で乱れた長い髪を整えながらその場で軽く伸びをする。
その彼女に対し、待ってましたと言わんばかりの勢いで歌乃が抱き着いた。
「琴ちゃんお疲れ!」
「ん。歌乃ありがとう」
琴は、いきなりの事で少し照れているのか動揺しているのか頬を赤くしながら歌乃に返事をした。
俺はそんな様子を見ながら、もうすぐ来るであろう二人の分も考えてお茶の準備をしに行く。
母さんにも手伝ってもらい準備したお茶を地下スタジオに運び込む。
「お、響。お疲れさまやん。なんか手伝うか」
「響さん。お邪魔してます。今日も彼女に怒られてた律貴先輩は無視で大丈夫ですよ」
「おい……言うなって…」
予想通り着いていた律貴とにいなさんが既に楽器を触り始めていた。
にしても律貴。そろそろ振られない?大丈夫なのか?
全員が揃い地下スタジオも音で満たされる。
わちゃわちゃしながらだけど、この時間がとても充実している。
――――――――――
いつもの夕食。
母さんと二人で食卓を囲んでいた。
「あんたたち、いつも楽しそうね」
「どうしたんだよ急に」
「なんだか昔みたいだって思っただけ」
昔みたい。
それはエアプライズとそのサポートメンバーが共に練習とかしていた頃の事だろう。
あまり過去の事を振り返らない母さんにしては珍しい発言だった。
「ねぇ響。もうすぐなんだからしっかり予定の管理しなさいよ?」
そう言いながら母さんは食卓の端に置かれていたカレンダーを捲る。
12月。
忘れてなんかいない。
「わかってるって」
父さんの命日が近いという事。
その日は毎年母さんと事故現場付近にある慰霊碑を訪れる。
俺自身あまり父さんとの記憶がないため特に何も深く考えることもない。
ただ、改めて向き合う時が来るような気がしている。
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