閑話:ハロウィン特別編!!
10月31日。
秋も後半戦に入り一年の終わりが見え始めたそんな日。
毎朝やってくる布団の魔力が段々と強くなってきた日。
海を越えやってきたお祭りに日本中が騒ぐ日。
ハロウィンがやってくる。
――――――――――
「今日も疲れたな…」
学校から帰宅し自室のベッドに身を投げ出す。
母には「響!制服のまま寝ちゃダメでしょ!」って良く怒られるが疲れには抗えない。
ベットに沈んでいく身体に意識を任せようとした時。
ピンポーン
チャイムが鳴る。
「そうだった…すぐ行くって学校で言ってたな…」
今日は10月31日。ハロウィン。
俺達がいつもお世話になっているミライズ広場でもハロウィンのイベントが開かれ、その一環として行われるライブの依頼が「ミライズ・ストリートマイク」の運営に来たらしく俺達が出ることとなった。
俺は普通にいつも通りで行こうと思っていたのだが、とある空色の髪の少女に「え!?仮装しないの!?そんなのボクが絶対許さないから!」と言われていまい最後まで抵抗はしたが仮装メイクをする羽目になってしまった。
そのマイクアップをしに来ると
「チャイムの音からして地下スタジオの方か、急がないと」
俺の家は玄関と外から入れる地下スタジオのそれぞれにインターフォンがあるので音で判断している。
しかし歌乃にしては少し控えめな鳴らし方だったな。
――――――――――
「トリックオアトリック!!」
「おい全部イタズラじゃねぇか」
地下スタジオのドアを開けると黒いマントとハットが特徴的な吸血鬼の仮装をした歌乃が逃れることのできないイタズラ宣言をした。
お菓子の選択は何処に行ったんだよ…
そんなイタズラ吸血鬼の後ろから大きなトンガリ帽子を被って
「と、トリックオアトリート…」
「え!琴まで!?」
「そんなに見ないで…」
恥ずかしくなった
歌乃が仮装して来るのは予想できていたが、琴に関しては完全に予想外だった。
それにしても二人とも準備が良すぎる…
「そんな見てるだけじゃなくて感想は無いの?ボク、本当にイタズラしちゃうよ?」
歌乃は黒のマントを手で広げて自慢の仮装を俺に見せつけてくる。
元々モデルのような美人である彼女。似合わない服の方が珍しいのだが、今回の仮装は似合うを通り越して本物であった。黒を基調としたその衣装はモデル顔負けのスタイルを映えさせている。また、ハットから零れる空色の髪がアクセントとなっていた。
「よ、良く似合ってるよ」
「やった!!それじゃ君の番だよ?」
歌乃が持っていた大きなパンダのワッペンが真ん中に張られている手提げバッグを俺の方へ突き出す。恐らくこの中に仮装のためのメイクに必要なセットが入っているのだろう。まぁ、バッグのダサさだけが気になるところではある。
――――――――――
「それじゃメイク始めるから椅子に座ったまま眼を開けないでね?いくらボクがカワイイからってダメだからね?」
「分かった、分かった開けないから」
歌乃の冗談を軽く流し、椅子に座らせられる。
俺の前に居る吸血鬼と魔女の二人が筆や
「響にメイクするが来るとは思わなかったな」
「琴ちゃん良い機会だからさ!楽しもうよ♪」
笑顔な二人が怖い…
「お、お手柔らかにお願いします…」
そう言葉を残し、俺はゆっくりと眼を閉じた。
人間、五感のどれかが欠けると他の感覚が鋭くなるという。
今の俺の状況がまさにそうである。
座る椅子のクッションの感覚。メイクをするにあたって準備する二人の些細な会話や、スペース確保のため机に上にある楽譜をする音。メイク道具から香る少し変わった匂い。全てが繊細に捉えることができる。
「さぁ、始めようかな。琴ちゃんは左からお願いね?」
「わ、分かった……人にメイクするの初めてだけど頑張ってみる」
「じゃあ初めは血糊から行ってみよう♪」
言葉だけ残し歌乃は「つまようじ、つまようじっと♪」と言いながらゴソゴソと音を立てる。しばらく経って。
「っ!?」
二人の気配が近くに感じたと思った時、冷たい針のようなものが頬と額に触れる。おそらく、つまようじで血糊を塗っているのだろうと思う。
とは言え、つまようじの長さには限界がある。もう、そこに居るのが分かる距離感。
思わず身体が緊張で固くなっていく。
「ちゃんと我慢して止まってくれるなんてさ。君、偉いね」
我慢じゃないんです。緊張しているだけなんです。
「ねぇ歌乃。もう少しだけ近づかない?その方がやりやすいよ」
「あ、ボクも同じこと考えてた!よし、やっちゃおう!!」
これ以上近く!?
俺の動揺なんて関係なし動く二人。その少し動く音と共に呼吸の音まで聞こえ始めた。
一体どれほど近いのだろうか、もう
「これならやりやすいね!ボク頑張るぞ!!」
歌乃の宣言通り、血糊が俺の顔に乗っていくスピードが上がった。
上がったのは良いのだが…
「……」
めちゃくちゃくすぐったい。
二人が吐く息が毎回毎回俺の顔に当たる。
その息が俺の耳を刺激し、髪を揺らす。
何とか、本当に何とか耐えて居られている。
「よし、こっち終わったしボクは前の方に行こうかな♪」
「私も直ぐに合流するよ」
息の向きが変わる。
今度は前の方から首の方、頬の方を息が流れていく。
これはもう不味い…
「ちょっ……あっ!?」
言葉と共にくすぐったさに耐えきれなきなった俺は眼を細めながら開けてしまう。
しかし、直ぐに眼を開けたことに後悔をした。
あと数センチ、俺が頭を動かしたら触れてしまうような所に二人の顔があった。
しかも目が合ってしまった。
二人の顔が段々と赤くなっていくのが分かるというか目の前で既に赤くなって固まってしまっている。そんなことを見ている俺もその近さで頬に熱を帯び始めていた。
「あ、開けないでってボク言ったよね…」「響のバカ」
「…すいませんでした」
謝罪を言い、俺は再び眼を閉じる。
今度は我慢しきってやる。
――――――――――
「このシールを貼って、最後にこのカチューシャを君の頭に付けたらっと…」
「完成だね歌乃」
「よし!響くん!眼を開けても大丈夫だよ!」
かけられた言葉通り、少しづつだが眼を開ける。
「おぉスゲェ…」
琴が持つ鏡にはフランケンシュタインの姿になった俺が映っていた。
ネジのカチューシャも凄いのだが、血糊を始めとしたメイクのクオリティの高さが凄まじかった。
「ボク達、凄いでしょ!これなら服なんでもいいし便利だと思うんだ!」
「めっちゃ凄いよ」
「やったぁ!!」
跳ねる吸血鬼、魔女も跳ねはしないが嬉しそうに笑みを浮かべていた。
そういえばと思い時計を確認する。
「時間も時間だしライブに行く準備するからソファに座って待っててくれ」
「はーい」と言い、座る歌乃、それに続く様に琴も腰を掛ける。
俺はその様子を傍目に紙の楽譜の中から必要なものを取り出していたりしていた。
しばらく経って。
「お待たせ行こうか」
ギターを背負い楽譜等を入れた手提げカバンを持ち、ライブに行ける状態にし二人に声をかける。
「「……」」
しかし、反応が無い。ただ、何かを確認するかのように俺の方を見ている。
そして。
「響、指から血が出てるよ?」
琴に言われて確認する。
確かに俺の指からは何かで切ったかのような傷があり、そこから血糊ではない本物の血が流れていた。理由は大体予想がつく。
「あぁ、多分、楽譜触ってるときに紙で切ったんだろ」
「血……ボクに任せてよ」
「ちょっと!歌乃!」
歌乃がソファから立ち上がって俺の元へ歩く。
そして傷のある指を確認したと思ったら俺の手首を掴んだ。
「……ちゅっ」
一瞬だった。歌乃は俺の指にある傷に接吻をした。
余りに一瞬過ぎる出来事に直ぐに反応が出来なかった。
「ちょ!?いきなり何してるんだよ!」
「あーあ、響が悪いんだよ?私たちは隠しきるつもりだったのに」
「こ、琴までどうしたんだよ!?」
そんなやり取りをしている間に
しかし、その顔は俺が知っている歌乃ではなかった。
口元からは八重歯、ブラウンの瞳は赤くなり、空色の髪から顔を出していた耳は長くなっていた。
まるでお伽噺に出てくる吸血鬼のように。
「君が悪いんだよ?ボクたちの前で美味しそうな
「か、歌乃?」
こちらに迫り寄ってくる歌乃。
その目は既に正気を失っている。
「琴!助けてく………嘘だろ…」
「もう私達は止まらないよ?」
助けを求めた琴もその姿を歌乃のように変え、俺に迫り寄ってくる。
突如現れた二人の吸血鬼に俺は壁際まであっという間に追いやられてしまった。
「響」
「響くん」
「「いたただきます♥」」
――――――――――
「響くん!起きろー!トリックオアトリック!!」
「歌乃、それ全部イタズラだから…」
地下スタジオのソファに伏していた俺は吸血鬼の仮装をした歌乃に起こされる。
「ゆ、夢?」
「響くん、どうしたの?…あっ!ちょっとエッチな夢でも見てたのかな?」
「みてねーよ!!」
恐ろしい夢は見たけど…
「歌乃!もうそのあたりにしてメイク始めるよ?」
「はーい!」
魔女の仮装をした琴が暴走しかけていた歌乃を止める。
いや、待てよ…
「そういえば二人、どうやって入ってきたの?」
「「………だってドアの鍵空いてたから」」
鍵閉め忘れていたのか?
今まで閉め忘れ何てした事無かったのに…
「あー響。気付いたんだけど」
「な、なんだよ」
「なんで指に切り傷あるの?多分だけど学校に居る時には無かったよね?」
「え!?」
確認すると血は流れていないが確かに切り傷があった。
「あ!ボクも聞いていい?なんで首元が赤くなってるの?」
「!?!?」
慌てて俺の後ろの方にある鏡を確認しに駆け出す。
ただ気のせいだろうか、彼女らに背を向ける瞬間。
二人の眼が赤く光ったような気がした。
………きっと気のせいだろう。
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