第35話:音と旅する二人
「真似かぁ…」
二日目、修学旅行最終日の夜。
俺はコテージのハンモックで
真似してきたつもりなんてない。
ただ憧れであっただけで。
ただ夢の象徴であっただけで。
ただ俺の中のオリジンであっただけで…
「……わかんねぇよ」
ハンモックを揺らす。
俺の今までは何だったのか。
心の中でゆらゆらとする。
今日、父の物と同じギターを背負って立ったステージではっきりと感じた父の影。
結局、俺の音楽のオリジンには父がいる。
きっとこれが真似に思われたのだろう。
だけど分からない。
今以上。今日見た冬杜さんみたいになるには今以上でなければならないのに、それが分からない。
俺は今の俺がどうしていくべきか分からない。
♪~
歌が聞こえる。昨日と同じ歌だ。
俺の身体は自然に動き出していた。
――――――――――
「今日も君は見つけてくれると思ったよ」
「…歌乃」
昨日と同じ波打ち際で歌っている少女がいた。
浜風に靡く彼女の特徴的な空色の髪が月光に反射して輝く。
いつもならその光景に見惚れていたかも知れないが今日はなんだか周りの音が良く聞こえる。浜風の音、波の音が耳を抜けていく。
「響くん、なんだか元気ないね?」
「そう見えるか?」
「うん」
どうやらマイバディにはお見通しのようだ。
そのブラウンの瞳が俺のことを突き刺す。
そこに普段の彼女が周囲に撒く明るさは無く、浜風より冷たかった。
ただ冷酷という訳ではなく、静かで水のような雰囲気である。
だから怖いとは思わない。
どちらかというと全てを受け入れてくれるかのような安心感さえある。
「冬杜さんに言われたこと、気にしてるの?」
「まぁ…」
「ボクから見たら君も十分すぎるほど凄いよ?」
「……」
彼女は心の底から言ってくれているんだろう。
俺の知る
今の俺には眩しすぎるほどに。
「そこまで考えなくてもいいんじゃない?」
「だって冬杜さんに言われたことは間違いではなかったし、考えるなって方が難しい…」
俺の言葉は浜風に消えてしまいそうなほど力を持っていなかった。
歌乃は小さく「そっか」と呟き月光照らす海の方を見る。
俺達の間を波の音だけが過ぎていく。
「でもね」
少女は海に言葉を投げ再び俺の方見る。
「憧れは理屈じゃないと思うんだ」
「え?」
「きっと心を焦がしてしまうものだから仕方ないことなんだよ」
いつの間にかガラス玉を取り出していた少女はそれを月光に掲げる。
月光に照らされたガラス玉は光を反射させ中に刻まれた飛行機雲が輝く。
「心を焦がしてしまうもの」それは間違いではない。
今日のステージで過った姿がそれを証明する。
「心の中にあるのって悪くはないと思うんだ。それをどうやって力にしていくかってだけでさ。君は何も間違ってないとボクは思うよ」
そう言って歌乃はガラス玉を再びポケットにしまう。
俺を肯定する彼女は今日一番月の光に輝いてみえた。
「だからこの話は此処まで!修学旅行最後の夜なんだからさ!もっとこの雰囲気を楽しもうよ♪」
そしていつもと同じ笑顔で俺の手を取って走り出す。
それはまるで道に導かれているかのように。
今はまだ先は見えないが、いつか辿り着ける。
そんな気がした。
――――――――――
――――――――――
「や、やっと着いたぁ…ボクの足がフワフワする…響くん肩借りるね」
「最後なのに締まらないなぁ」
沖縄から飛んできた飛行機を降り、空港で行きの時と同じような様子になっている歌乃に肩を貸す。
そういえば…
あのステージの後、歌乃が忘れ物して取りに行ってたけど元々何も忘れるようなものなんて無かったのに何を忘れたのだろうか…
今の状態の歌乃には聞けないからいつか思い出した時にでも聞こうかな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます