第30話:ボク達だけのもの
「もうボク、お腹いっぱいだよ!」
俺の横を歩く歌乃は満足そうにお腹を撫でる。
メインストリートに戻った俺達は次の目的地に向かって歩いていた。
まぁ俺は目的地について何も聞かされていない。全てのルートは彼女の頭の中にしかないからである。
「なぁ歌乃。次は何処に行くんだ?
「あと一時間あるからね!ボクに任せてついて来て!!」
「おい!ちょっと待て!引っ張るなって!!」
歌乃は「アハハ!」と笑いながら俺の手首を掴んで走り出す。
周りに居る観光客達の間を潜り抜けていく。
観光地らしい多国籍言語が飛び交う中を俺達は駆けていく。
しばらくして少し路地に入ったところにある少しこじんまりとした店の前に着いた。
店頭では個性的なデザインTシャツたちやアクセサリーが礼儀よく並んでおり、店内からはそのTシャツを着た外国人観光客が満足そうに出てきている。
「お待たせ此処だよ!このお店でボクと君だけのオリジナルTシャツを作れるんだっ♪」
「オリジナルTシャツ?」
「まぁまぁ、ボクの後について来てよ!」
俺の疑問など置いて彼女は店内へと入っていく。
「はぁ、答えになってないんだよなぁ」
俺もその後を追い、店内へと向かう。
店内は、店頭に並んでいたように様々なカラーやデザインのTシャツがビッシリと並んでいた。また外からは分からなかったが店内には観光客も多く、店内に置かれたタブレット端末と睨めっこしている。
俺が店内の様子に気を取られている間に歌乃は空いているタブレットを見つけ、俺を手招きしていた。
「こっちこっち!このタブレットを使ってTシャツに印刷する内容を決めるんだよ!」
歌乃はそう言ってタブレット端末の画面を俺に見せる。
オリジナルTシャツを作る仕組みは良く分かった。
だが、彼女が何故此処を選んだのかが分からない…
「なぁ歌乃。Tシャツならネットでもできるけど何で此処なんだ?」
俺に理由を聞かれると思っていなかったのだろう。歌乃は一瞬驚きの表情を見せ、ポケットからある物を取り出した。
「これだよ。君も持ってるでしょ?」
「午前中も体験で作ったガラス玉のキーホルダー?」
確かに俺も持ってる。別に大きな荷物でもないし、作ったばっかのままでポケットに入ってる。
「店頭で見たかも知れないけど、このお店はアクセサリーみたいな小さなものまで加工、印刷してくれるの。だから…」
少女が下向く。
明るい声は見る影もなく、最後の方は今にも消えそうな声だった。
「みんな持ってるガラス玉をボクと君だけのオリジナルに変えたかったんだ…」
「……」
こいつ、何言ってんだ…
言葉を捻りだした空色の髪の少女は下を向いたままで表情は分からない。
だが、綺麗なその髪からはみ出している耳が赤くなっている事だけが分かった。
そんな歌乃が顔を上げる。
「もーっ!君が聞いたのに何も言わないってのは良くないんじゃない!?ボクはバディとして二人だけのものが欲しいの!!」
「ご、ごめんって」
怒られてしまった。
こうやって歌乃に怒られるのは初めてかも知れない。
言ってしまったらまた歌乃に怒られるが、いつもと互いの立場が少し違う感じがして俺としては少し面白く感じる。
「ボクは優しいからね。これで許してあげる」
歌乃は手に持っていたタブレット端末を素早く操作して俺に見せつけた。
そこには俺の身長の情報が入った大きなパンダが胸に書かれたTシャツが購入済みとなって書かれている。
とてもダサいTシャツだが…まさか………
「ボクがデザインしたこの可愛いTシャツを買って今度着てもらうね♪」
「嘘だろ…」
「ホントだよ♪」
歌乃は「ハハッ!」と笑顔が弾けさせる。余程、俺の表情が間抜けだったのだろう。
「さてと、響くん!ボクたちだけのものを作るよ!」
すっかりご機嫌に戻った歌乃は再びタブレットを触りだす。
深く息を吐いた俺もタブレット端末を彼女の後ろから覗き込むように見ながらデザイン考え始めた。
――――――――――
side:
「ごめん、俺ちょっとトイレ行ってくる」
「じゃあボク、此処で待ってるね?」
響くんはボクに「わかった」とだけ残して走って行ってしまった。
ガラス玉への加工を終え、いよいよあの人の所に行ける。
「ふぅー。流石に緊張してきちゃったなぁ…」
『音楽してるボクたちが有名人の公演を観に行くなんて何も不思議じゃないよ』
ボクが彼に言った言葉はボク自身に向けたものでもあった。
あの人に会いたい。
会ってボクの目的を達したい。
「それにしても…」
ポケットからさっき加工したガラス玉のキーホルダーを取り出す。
加工したガラス玉には飛行機雲を意識した二本の白い線が入っていた。
「私って…重いかなぁ……」
そう呟き、キーホルダーをポケットにしまった。
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