第25話:到着!!
『めんそーれ!』
俺達を歓迎する大きな看板を潜り抜け、沖縄へと降り立つ。
大きな水槽が迎える空港の到着ロビー。陽が一番高くなる時間帯である今は、冷房がついていた。
「うぅ、まだ足元がフワフワするよぉ」
足取りがおぼつかない歌乃が俺の後ろで嘆いている。
彼女は飛行機に乗って直ぐに酔い止めの薬と、どこに隠していたのかよく分からないアイマスクを装着して寝たはずなのにダメだったのだろうか。
なら……
「イギリスから日本までどう来たんだよ」
「……気合…」
「え?」
消え入りそうな声で呟く歌乃の声が聞き取れず、彼女の方へ歩み寄る。
「気合で寝続けて来たんだよ!」
近づいた俺を吹き飛ばすかのように歌乃が声を張る。目が合った少女の頬は恥ずかしさからか少し赤くなっている。
でも確か、イギリスから日本まで掛かる時間は。
「12時間も!?」
「そうだよ!頑張ったんだから!」
何という根性…
その時。
「響くん!歌乃ちゃん!うるさいよ!!」
委員長の言葉で俺達は周りから向けられている視線に気づく。
同じクラスの人達だけならまだマシだったかもしれない。
出張中のサラリーマン。空港の職員。この場に居合わせた観光客。
この到着ロビーに居るありとあらゆる人の視線が俺と歌乃に集まっていた。
静かな到着ロビー。
急速に熱を帯びだす頬。
速くなっていく心臓のテンポ。
額に伝う冷たい汗。
俺は首をゆっくり動かし横に居る
「「……」」
目が合う。
さっきより赤みを増した彼女の頬はその熱が俺にまで伝わりそうなほどだった。
俺達の言うべき言葉は決まっている。
「「…ごめんなさい」」
俺と歌乃の謝罪は静かなロビーに響いていった。
周りの視線と琴のお叱りを受け、すっかり小さくなった俺達はクラスの列の最後方をついて行く。いつも制服姿でしか会うことのないクラスメイト達の私服姿に改めて不思議な感覚になる。…数名を除いて。
バスに乗るためにロビーから出るとさっきまで冷房で守られていた俺達に沖縄の温かい風が届いた。
「わぁ、ホントに来ちゃった」
歌乃が思わず声を漏らす。
海外暮らしだった彼女にとっては初めての修学旅行。
やはり思うところがあるのだろう。
「はしゃぎ過ぎるなよ?」
「ボクだって子供じゃないんだから!限度ぐらい弁えてますよーだっ!」
俺の注意にも元気よく反撃する様子からも飛行機の影響は残っていないように見えた。
しかし。
「……」
「「し、静かにします」」
俺達の列の先頭から放たれる
そんな俺達を乗せてバスは進み始める。
バスが向かう最初の目的地は水族館。おそらく日本で一番有名な水族館。
――――――――――
「すっごーーーい!!ねねっ!琴ちゃん!響くん!ボクこんなに大きな水槽初めて!」
「ちょっと歌乃?静かにしないと追い出されるよ?」
「うぅ…ついテンション上がっちゃって…」
なんだろう…今日の歌乃はずっと琴に怒られているような気がする。まぁ俺が言えた話でもないが。
歌乃がテンション上がっているのはよく理解できる。正直、俺もこのギネス記録にもなったことのある此処の水槽の大きさには驚いた。
シイラやカツオ、マグロといった大型回遊魚が水槽を駆け、底の方で存在感を出している大きなクエがゆっくりと泳ぐ。マンタは空を飛ぶかのように舞い、その近くをマイペースにマンボウが泳いでいた。
そして何と言っても目玉は。
「響くん!ほらジンベエザメがこっちに来てるよ!」
「いや…でけぇな…」
世界一大きな魚、ジンベエザメ。
またもやテンションが上がる歌乃。俺はその大きさと迫力に興奮より驚きが勝ってしまう。
「響、歌乃。こっち行ってみようよ」
琴が俺と歌乃を手招きしている。
彼女も表情に出さないだけでテンションが上がってるのは間違いない。眼もキラキラしてるし、語尾もなんだか上がってる気がする。静かに尻尾だけ振ってる犬みたいにもみえた。
「此処も凄いな…」
「ボク達、海の中に居るみたいだね」
琴が俺達を導いた場所はさっきの水槽の横から伸びているトンネル型水槽の通路。
地面を除き、全てがアクリル板であり本当に海の中、水槽の中に迷い込んでしまったような感覚になる。
「ほら見て」
琴が指を指す。
その先にはこちらの方へ泳いでくるマンタの姿。5m近いの巨体が迫ってきていた。
そして。
俺達の頭上を越えていく。
水槽を照らすライトが作り出したマンタの影が俺達を一瞬だけ飲み込んだ。
もうあれは泳いでいるのではなく、飛行しているようだった。
「「「……」」」
その姿に圧倒され、俺達は声も出せなかった。
しばらくして歌乃が動く。
「あ!思い出した!にーなちゃんからラブラブしてる律貴くんの写真撮ってって言われてたんだった」
そんな約束何時したんだよ。
後、にいなさんも中々やるな…
「琴ちゃん、響くんゴメン!ボクちょっと行ってくる!!」
「お、おい!」
俺の声も届かず、歌乃は走り去って行った。
相変わらずの忙しなさというか、マイペースというか。
にしても。
「「……」」
残された俺と琴はどうすればいいのかも分からず立ち尽くすことしかできなかった。
どうしよう。
あんな事があったってこともあり、何も目的が無い状態で二人きりは会話も出て来やしない。急なこの状況なら尚更である。
時々、互いにチラチラと視線を合わせ無言の探りを入れ合っていたその時。
「ママぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
泣き叫ぶ子供の声が俺たちの居る水槽のトンネルに響き渡った。
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