第24話:怖いんだ

『SSS航空から出発便のご案内をいたします。SSS航空 那覇行き、10時30分発、161便は、まもなく皆様を機内へとご案内いたします。

 那覇行き、10時30分発、161便をご利用のお客様は保安検査場をお通りになり、11番搭乗口にお集まりください。繰り返します……』


 空港の国内線11番搭乗口の前に集まった俺達は、一般の利用客より先に搭乗を始めていた。とはいえ、別のクラスの搭乗が今始まったばかりなので俺達が乗れるのはもう少し後になりそうだ。


「……」


 まぁ問題は隣にいる空色髪の少女。その高い背が縮んだのかと錯覚してしまうほど元気がない。いつも輝くような綺麗な笑顔も鳴りを潜めている。

 更に時折、何もない虚空へ拝んでみたり、団体移動で前を歩く俺にぶつかったりと魂此処に在らずといった状況だ。

 もちろん、こんな彼女初めて見る。あの時の屋上では聞かなかったが、今の状態だと聞かざるを得ない。


「怖いのか?」


「……響くん怖くないの?」


 少しの沈黙の後、俺を視た彼女は顔色を窺う様に問う。

 俺の過去をしているからこその問い。

 正直、全く恐怖心が無いと言ったら嘘になる。事故とはいえ父を奪った乗り物。

 ただ、12年間の月日と父が残した音楽があるから。


「…ギターやってる限り大丈夫だと思う」


「強いね…君は…」


「「……」」


パチンッ


 間を断ち切る様に軽く弾けた音が鳴る。

 咄嗟に横の少女を見ると色白な頬の肌が少し赤くなっているのが分かった。


「ボクも克服しないとね!高所恐怖症を!」


「なんだよ、高所恐怖症かよ!」


「ムッ!!ボクだって必死なんだよ!?」


 彼女の頬の赤色が濃くなる。

 背丈はあるが小動物が怒っているかのような感覚である。

 そんな小動物怒る歌乃と戯れるにつれ声量も少しずつ上がっていき。


「後ろの方の二人!静かに!!」


「「はい…」」


 遂に怒られてしまった。

 クラス先頭にいる委員長から受けた叱りの言葉と、それに伴って集まった周りの同級生の視線により俺と歌乃はシュンと小さくなってしまった。

 


 琴の先導により俺達のクラスも搭乗が始まった。

 クラスで形成される列の後方である俺も少しずつではあるが前に進んでいた。

 そして搭乗口を潜り、飛行機に乗るためのスロープを降りていく時、後ろから服の裾が引っ張られる。

 

「ゴメン。しばらくこうさせて」


 振り向く前に後ろから言葉がやってきた。

 前を進んでいる同級生の喧騒の中、此処だけ時が止まったかのように言葉が鮮明に聞こえた。

 俺は前を向いたまま何も答えずに進む。しかし、その歩幅はいつもよりは少し小さく引っ張られる裾に掛かる負担も少ない。

 ただ無言の肯定を貫く。

 だって振り向いたって互いに……うん、ダメだと思う。直感的に。


「何も言わないんだ……君って本当に優しいね」


 背中の方から聞こえる言葉。

 直感が確信に変わる。

 頬が警告する。

 …本当にダメだ。


――――――――――

 

 まるで小さな子供が親から離れないよう必死について行っているかの状況。

 通路に入って他の生徒も既に前にいっている状況。

 遠のく喧騒につれて二人足音だけが大きく聞こえてくる状況。

 そんな中。


「私も…強くならないと……」


 小さく、本当に小さく放たれた言葉は誰の耳に入ることなく二人の足音で消される。

 そして、時折、響が歌乃に対して振り向くことなく声をかけつつ他の生徒に大きく遅れることなく飛行機に搭乗していった。



 今日は日本全国みても心地よい秋晴れ。

 空に引かれる飛行機雲も良く映える素晴らしい天気。

 彼らの修学旅行が始まる。

 


 

 


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