3章:音と旅する二人

第23話:修学旅行に行くよ!


 文化祭も終わり10月も中頃を迎える。

 キツイ残暑も終わりを告げて外気の寒暖差も激しくなった季節。

 今、俺達の居る陽が高く昇る学校の屋上にも、季節を感じられる金木犀の柔らかく包み込むような香りが風で運ばれて来ていた。

 

「ん~!いい香り!!秋って感じ♪」


 季節の香りを味わう歌乃かのは屋上の柵に身を乗り出して気持ちよさそうに伸びをする。まぁ、柵と言っても俺達学生の活動限界を決める物であり、その先にも屋上は続いてるから伸びをした所で何も危なくはない。


「なぁひびき、どこ回るか決めたんか?」


「決まってるというか、決まってないというか…」


 律貴りつきの質問に対して、俺は曖昧さを極めた答えを返す。

 彼には悪いが、そう答えることしかできない。

 なぜなら。


「ボクに任せて!絶対楽しませて見せるから、当日を楽しみに待ってて♪」


 歌乃がベンチに座る俺の両肩にそれぞれ手を置き、元気よく声を張る。

 俺の頭の後ろからする声。表情は見えないが声色から笑顔なのが伝わってくる。

 文化祭が終わってから俺達の学年でホットとなっている話題である今回の件で彼女は一歩も譲る気などない様であった。


「な?」


「面白いやん」


 どこがだよ。不安の方がでけぇよ。

 思わず口から洩れそうになった言葉を飲み込む。

 先生の準備で此処に居ないことも当日は巻き添えである。


「いいなー。先輩たち何処行くんですか?」


 机を挟んだ対面のベンチに座り、正面の机に突っ伏しているにいなさんが顔だけ上げて俺達に問いかける。


「沖縄!大丈夫だよ!にーなちゃんのお土産ちゃんと買ってくるから!」


「あ、ありがとうございましゅ…///」


 感謝を述べながら再び顔を伏した、にいなさんの耳は淡いピンクの髪に紛れている中でも分かるほど赤くなっていた。

 快晴の秋空に空高く飛ぶ一機の航空機が白い軌跡を残していく。


「沖縄ってことはで移動だもんな」


「そうやな」


ビクッ


 俺と律貴の何気ない会話に対し、歌乃の身体が一瞬硬直するのを肩に乗る彼女の手から感じた。

 肩に乗っていた手が引いていく。

 歌乃がとった一連の動きに違和感を覚えた俺は引かれた手の方向を見る。


「歌乃どうした?」


「ナ、ナンデモナイヨー」


 片言で口をアワアワさせる歌乃。何か忘れていた物を思い出したかの表情だった。

 言えることは一つ。

 何でもない訳では絶対ないということ。

 

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