第22話:音で気付く二人


「シフト上がりまーす」


「ボクもー」


「二人ともお疲れ!」


 クラスメイトに労われ教室を後にする。

 廊下ではいつもの制服ではなくカラフルなクラスTシャツを着た生徒たちで溢れていた。


「ボク、文化祭って初めて!とっても楽しいね♪」


「海外には文化祭ってないのか?」


「文化祭どころか行事なんてほとんど無いんだよ?だからね、今とっても楽しいんだ!」


 ご機嫌に空色の髪を揺らし歌乃が眼をキラキラさせている。

 ライブの翌週。毎年10月上旬に開催されている高校の文化祭。

 俺達のクラスに出し物である喫茶店のシフトを終え、歌乃の好奇心に全てを委ね散策する。


「あ!そういえば!」


「なんだ?」


「ちょっとついて来て!」


 なにか思いついたかのように走り出した歌乃に追ってたどり着いた先は体育館。

 様々な部活に成果発表やパフォーマンスがステージの上で行われていた。

 彼女はこれらが見たかったらしい。


「ねぇ響くん。来年はここでライブしよっか」


「本当に言ってる?」


「本当」


 まれに彼女が見せる本気の表情だった。

 きっと青春する部活の生徒たちに惹かれたのだろう。

 ただ、あの景色ステージを知ってしまった俺の心も揺れていたのは間違いなかった。

 

「わかった。考えとく」


 俺の答えに笑顔で返事する歌乃。その笑顔にあの日の出来事がフラッシュバックして少し頬が熱くなったような気がした。

 そんなとき。


「あ!やっと見つけた!」


 琴が俺達の所に走ってきて、半ば強引に俺の手に荷物を持たせる。


「響、これ私の貴重品。委員会の仕事もうすぐ終わるから持ってて!」


「ちょ!おい!」


 「直ぐに来るから―」と走りながら言葉を残して去って行った。

 走り去って行った彼女の顔はではない純粋な笑顔が咲いていた。

 琴の事も色々あった。

 あの日の夜、彼女たちが何を話したのかは知らないけど間違いなく分岐点となった。

 その当事者の1人である空色髪の少女には言わないといけない。


「なぁ、歌乃。琴の件、色々ありがとな」


「えぇ?今更~?」


「ごめんて」


「まぁ、いいよ。これから大変なのは響くんなんだから♪」


「どういうこと?」


「内緒っ♪」


 そう言って笑う歌乃。

 言葉の意味が分からなかった俺は首を傾げるしかできなかった。

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