第19話:ボク達のライブ!①
side:深坂 琴
手が震えている。
リハーサルは何とか乗り越えれたけど指の感覚が本当に鈍い、冷たい。足もなんだかフワフワしてる。
ライブハウスの空気に緊張しているのはあるけどそれだけじゃない。怖いんだと思う。足を引っ張ってしまわないか。
伴奏者として誰かと演奏したことはたくさんある。だけど誰かの頼みではなく自分の意思で人と演奏をするのは経験が少ない。しかも今回一緒なのは
今回、私たちは元々出演しているアーティスト間にねじ込むように枠が入ってる。与えられた時間は20分。この二週間で練習した曲たちを脳内で回し続ける。例え20分の短い間だとしてもミスするわけには行けない。
柱を背に座り込み、指を合わせて合掌の形を作り鼻の頭にチョンっと当て深く深呼吸。自分を少しでも落ち着かせようとする。
直前のグループがステージに上がり通された控室。大きな音は出せないけど皆それぞれができる準備をしていた。
にいなさんはイヤホンをつけトラベルカホンを軽く叩きリズムの確認、律貴と響は互いの楽器の弦を確かめ合っている。歌乃は……
「琴ちゃん!どーしたの♪」
「歌乃…」
私の手を包むこむように歌乃の手が合わさる。あぁ温かい…
「ちょっと緊張しちゃって…」
「そっかぁ。んー……あっ!?」
少し悩むような表情をした彼女の顔がパァっと花のように咲く。
「響くーん!こっちきてー」
「はいはい」
「っ!?」
ドクンッ
歌乃が呼ぶ名前に心臓が反応している。頭が理解出来ていないこの現象を抑えるために深く深呼吸をした。
「歌乃、呼んだか?」
「琴ちゃん緊張してるんだって!」
やめて!っと思わず口から飛び出そうになる。緊張が飛びそうなくらい心臓がうるさい。
「緊張?しなくていいだろ」
「え?」
声が漏れる。
「琴はいつも通りやってたら大丈夫でしょ。だって琴だし」
「ボクもそう思ってるよ♪」
二人が私の手を取って座っていた身体を起こし上げてくれる。彼の「だって琴だし」って言葉が私の事を温め、二人の信頼が浮ついた足元を地に付けてくれた。
なんだろう彼の顔を見ると落ち着ける気がする。前まであんなに痛かったのに、今では早くなる心臓の音すら心地よく、温かく感じる様な気がする。
こんな不思議なこと初めて…
「ありがとう二人とも」
二人に引かれて立ち上がった私は、小さく芽生えた温かい感情とほんの少しの緊張が残っていた。
それにしても、あと不思議なことがもう一つ。
二人と手を繋いだ時にとても懐かしい感じがしたんだよね。
――――――――――
「ギターの弦オッケー。ピックもよし、予備も持ってる。
前を演奏するグループが最後の曲に入りステージ横で待機し楽器等の確認をする。
「わぁぁぁ!」
「いいぞぉぉぉぉぉぉ!」
「最高だぁぁぁ!!」
ステージ横ということもあって歓声が聞こえてくる。
歓声の音圧的に入りは満員とまではいかないがそれなりに入ってはいそうだ。
この歓声、緊張していた琴の事もあるし、他のメンバーのことが少し心配でもある。
「先輩方ぁ…私、上手くできるでしょうか…」
「なんだい、にーなちゃん?君も緊張してるのかい?」
「はうぅぅ…」
「ちょっと歌乃!こっちを見ないで!あといきなり抱き着いたせいで、にいなさんの意識がどっかに行ってるよ?」
「あ!大変!おーい、にーなちゃんしっかり!琴ちゃん助けてーーー」
うん、何も心配いらない気がしてきた。
「みんな大丈夫そうやな」
「流石、慣れてるな」
ライブハウス慣れしている律貴は流石の落ち着きようである。
これなら大丈夫。
「「「「ありがとうございました!」」」」
「セットチェンジお願いしまーす!!」
前のグループの挨拶と同時にスタッフから呼び出しが入る。
「いくか」
自分の気合を入れるため少し呟いた。
――――――――――
「このグループ、名前ないらしいよ」
セットチェンジ中に聞こえた言葉。確かにその通りではある。
だって歌乃が決めるって言ったものの。
『ウィングス・ボーイ&ガール!』
『却下!!』
彼女のネーミングセンスが本当に無かったため最後まで決まらなかった。
そんなこと考えている間に準備ができた。
「ふぅ」
一息ついて後ろを少し見る。
照明のせいか額に少しだけ汗が見えるにいなさん。
軽くペグを触って最後の音を冷静に確認をする律貴。
鍵盤を前にして手を擦る琴。
横を見る。
マイクのコードを手に乗せて、まるでそれが彼女の身体一部であるかのように撫でる。空いている手でマイクをスタンドから取る。
俺と目が合う。
彼女が俺に何を語りかけているのかは分かってる。
『行こうか!マイバディ♪』
『もちろんだマイバディ』
※カポ…カポタストというギターを弾きやすいようにするため音の高さを調整するアイテム
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