第18話:ボク達の普通だよ!
朝食を食べ終えて昨晩、歌乃から送られてきたメッセージと睨めっこする。
「ほんと、なんだろ」
スマホの画面に映るグッドマークのスタンプと。
『いつもと同じ、普通で居てあげてね?』
と書かれたメッセージ。
昨夜ベッドで沈んでいた俺に送られてきたモノは余りにも言葉足らずであった。
普通って何だよ?
そんな思考を巡らせながら地下スタジオで楽器の用意をする。今日は土曜日。律貴らの部活がないため朝から練習をする予定であった。
用意といってもカホンとベースだけ、そこまで時間はかからない。マイクだけは歌乃に用意してもらう。じゃないと「ボクはお客さんじゃない!」と拗ねるから。
ピンポーン!ピンポーンピンポーンピンポーン!
地下スタジオと外を繋ぐドアからチャイムが鳴る。
家の近さ的にも歌乃だろう。あとこの忙しないチャイムの鳴らし方的に。
ピンポーンピンポーン!
「今から開けるから!」
ドアを開ける。
「おはよう響」
「え?琴!?」
そこには昨日俺が全てをぶつけ、それを跳ね返した少女がいた。
「「……」」
目が合わせられない…
「おっはよー!」
その後ろから歌乃がひょこっと顔を出す。
俺たちの間に合った絶妙な空気に割って入ってきた。
「こんな場所で止まってないでさ!中に入ろうよ!」
「ちょっと歌乃!押さないでよ!」
琴と歌乃、二人が雪崩れ込むように地下スタジオに入ってくる。
「「キャ!?」」
ズサッ
あ、こけた。
地下スタジオのドアに躓いた二人は俺の前で重なる様に倒れた。
「歌乃!ちょっとどいてよ!」
「ぐへぇ、マイバディ助けてー」
一体俺は朝から何を見せられているのか…
二人はこけた際に服に付いた汚れをパパッと払う。
「ふぅ」
深呼吸する琴。
「ねぇ響」
「は、はい!」
緊張で強張る顔。震える声色。
すごくみっともない…
琴は気にすることなく言葉を続ける。
「…曲」
「曲?」
「演奏する曲教えてよ!!!時間もう二週間しかないんでしょ?あとキーボードはいつもの使って練習させてもらうからね!」
「お、おう」
早口で言い切った琴は慣れた手つきで地下スタジオの機材を触り始めた。
歌乃が俺にウィンクしている。
昨晩送られてきたメッセージの意味が分かったような気がした。
「なぁ琴」
「な、なに?」
「また、よろしくな」
返事はない。
だが機材の方を向いて作業する琴の耳が少し赤くなったような気がした。
向き合うと決めた少女の心。それは痛みとはまた違う感覚が芽生え始めていた。
ニコニコしながら様子を見ていた歌乃もマイクの準備を始める。
「響くん!このケーブルはこっちでいい?」
「ごめんベースの方見てるから見れねぇ」
「歌乃こっちこっち」
「ありがとう!琴ちゃん!」
「ちょっと抱き着かないでって!」
ブツンッ
「おい歌乃!今、琴に抱き着いた時ケーブルに足かけただろ!」
「あ!ゴメンゴメン♪」
一気に賑やかになった地下スタジオ。
きっとこれが普段通り、普通なんだろう。
最中の居る三人は今到着した二人に気がつかない。
「「…お邪魔しまーす」」
鍵が開いたままの外に通じるドアを開けた二人が、中に入っていくタイミングを失っていた。
「なんやこの状況…」
「私に分かるわけないじゃないですか」
律貴とにいなが地下スタジオに入っていけたのはもう少し後の事だった。
――――――――――
「せ、先輩方ぁ…私、緊張で吐きそうです」
箱をランドセルのように背負った少女が弱音をこぼしながら歩いていた。
「そんな気負わんでええよ。リラックスしてこや」
「律貴先輩には言って無いです」
「なんでやし!」
「にいなさん大丈夫ですよ。私も緊張してますから」
ツッコミを入れる律貴に対して琴がにいなさんに答える。
そして言葉を続ける。
「だから気楽にいきましょう!みんな居ますし、ほら見てください」
琴が指を指し、にいなさんの視線を誘導する。
「ねぇねぇ!早く行こうよ!ステージ早く見たいよ!リハーサル早くしたいよ!」
俺達の前で跳ねる歌乃が周りの緊張を飛ばす勢いを見せていた。
「はうぅ…眩しいぃぃ」
歌乃の姿を見て悶えるにいなさん。
なんだかんだいつも通りかもしれない。
「ほら響くん!行くよ!!」
「押すなって!」
皆を後ろから見ていた俺の所へ歌乃が寄ってきたと思いきや、俺の背中を押して無理やり前へと進めさせる。
「ちょっと歌乃!危ないよ!!」
後ろから琴の声も聞こえてくる。
今日が本番なのになんだよ、このわちゃわちゃ感。
まぁ俺達らしいかもしれない。
バンド合同ライブin城跡ハウス
開幕
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