第14話:ボクと君の初デートってやつ?②
母さん、ごめんなさい。
一足先に父さんの所に逝くことになりそうです。
【カップル限定スイーツビュッフェ!本日最終日!】
喫茶店に掲げられた看板。
甘い物が得意じゃない俺にとっては縁も
しかし、歌乃の目的は間違いなくこれだろう。
そういえば、前にコーヒーを淹れた時に砂糖多めって言ってたような…
「予約済みだから並ばなくていいんだよ!ボクって準備いいでしょ?」
「あ、あぁそうだな…」
「ん?どうしたの?顔色悪いけど?」
「大丈夫、大丈夫」
「そっか、んじゃいこっか」
「来たかったんだよね♪」と最後に言葉を付け足した歌乃にシャツの裾を引かれる。予約特権で行列を構成するカップルを他所に入店した。
これだけオシャレしてテンション上げて活気に満ち溢れている彼女の気持ちを遮ることなんて俺にできるはずがなかった。
覚悟を決める。
歌乃の予約のおかげでスムーズに席まで着くことができた。
まぁ受付の人は、色々ぎこちない俺を疑いの眼で見ていたが見なかったことにしておこう。
席に着き直ぐにドリンクを頼んだ。
歌乃は甘めのカフェオレ。俺は少しでも…ということでアイスコーヒーのブラックを注文した。注文を受けた店員が厨房に向かったのを確認した歌乃が動く。
「ボク取りに行ってくるから!大丈夫、響くんの分も取ってくるから!だから席で待ってて!!」
「少しで…」
俺の返事を最後まで聞くことなく彼女はスイーツ争奪の戦場へと旅立っていった。
数分後
「いやぁ、凄い人だったよ!でもこれだけあれば、お腹も心もきっと満たせるね!」
「あはは、ありがとう。さすがだよ」
テーブルに置かれた皿から眼を背けたくなる。
ケーキ、ケーキ、クッキー。
ケーキ、ケーキ、クッキー。
ケーキ、ケーキ、ケーキ、ケーキ、ケーキ、ケーキ、クッキー。
もうダメだ…
――――――――――
「うぅ…」
「あ!起きた!」
胸を焼く甘い香りが残る中、ゆっくり眼を開ける。
仰向けの俺の瞳に歌乃の顔が真っ先に映った。
「くっ…」
まだ痛む頭を押さえる。
油断するとフラッシュバックの飲まれそうだ。
※※※
皿に積まれていくケーキ。
眩しい笑顔を咲かせながら俺に話しかける歌乃。
そんな彼女をガッカリさせたくないその一心でケーキを喰らった。
「ごちそうさまでした!!」
「ごち…そうさまでした」
何とか店から出ることはできたが既に限界である。
「ねねっ!次はね!」
「ご、ごめん歌乃…」
「えっ!?響くんっ!?」
座り込んだ俺の身体は自分の力で動くことはできなかった。
※※※
うん、凄く情けないと思う。
「ごめんね響くん。無理させちゃったみたいだね」
「いや、自分をコントロールできない俺が悪いよ」
だからそんな顔しないで欲しい。
「君って優しいね。責任感が強いってゆーか…私のために我慢してくれてたんだよね。甘いの苦手なのに」
返す言葉がない。人の期待を裏切れない、その加減ができない、自分でもめんどくさい性格だと時々思う。
「だからね。いつもボクの相手をしてくれることも合わせての…お礼だよ?」
歌乃はそう言い微笑んだ。彼女の頬が少し赤い。
お礼?一体どういう事だろうか?
仰向けの俺は言葉の意味を直ぐに理解できなかった。
彼女の顔をみる。
まだ少し赤い頬に重力の従う空色の髪が時々かかる。
ちょっと待てよ。
なんで俺は歌乃の顔を下から見ているんだ?
身体の感覚が冴える。
俺の頭を支える柔らかい感触。視界の端に映る彼女の服、鼻孔をくすぐる淡い香りが答えを示していた。
「ふぇっ!?」
ひざ枕されてる!?
理解した脳がショートし即座に頬を沸騰させる。
「ちょっと!そんな急に恥ずかしがらないでよ。ボクまで…恥ずかしくなるから」
消え入りそうな言葉もひざ枕されているこの状況が逃すことなく拾う。
美しく艶のある空色の髪が彼女の頬を朝焼けかのように映えさせいた。そして震える手で俺の頭を撫でる。ショートした脳は声を発する指令すら送ることができなかった。
頭を少し動かして周囲を見る。
どうやら施設の端にあるベンチで人々はこちらのことなど気にすら留めず歩いていた。
良かった、誰かに見られるような場所だったら本当に恥ずかしさで死んでたかもしれない。
「周りは気にしなくていいよ。此処だけはボク達の時間だからね」
なるべく死角になる場所を探してくれたのだろう。
彼女の言う通り、まるで周りから切り離された二人だけの時間軸に居るかのようであった。
だからこそ。
だからこそ、歌乃との距離に意識がいってしまう。
頭を撫でる手、頭が接している太腿から伝わる体温。
恥ずかしさで震える呼吸の音。
触れる衣服からする淡い柔軟剤の香り。
すっかり真っ赤に染まった顔と綺麗な空色の髪。
やっぱり綺麗な顔立ちだと思う。あ、首元にホクロあるんだ。
普段気付かないことまで気付いてしまう。
歌乃のことを今までこんな近くで見たことなかった。というより、異性とこの距離感で接したことなんてない。俺の心臓のとても速いテンポを刻む。歌乃にこの音が届いてしまわないか不安である。
「君、顔真っ赤でなんだか可愛いね」
お前が言えることか。
心の中でツッコミを入れていると歌乃が頭を撫でる手の反対、空いている手が俺の首元へ伸びてきていた。
「ちょっと、なんだよ」
「……」
その手は俺の首回りを軽く触った。
あ、やっばい。
「ふふっ、君の心臓めっちゃがんばってるね」
やられた…
ホントに俺の顔、爆発してないよな。
――――――――――
「響くんもう大丈夫?」
「ま、まぁおかげさまで」
体調が復活してベンチに座りながら大きく伸びをする。
「ボクのお礼、満足してくれたかな?」
「///」
「あ、また赤くなった」
今日食べた中で一番甘かったと思う。俺の胸焼けを上書きするほどに。
というか、赤いのはお前の顔もだぞ。
「それじゃメインイベントと行きますか!」
「え?あの喫茶店が目的じゃなかったのか?」
「それもそーだけど!こっちの方がボクにとって大事なんだ♪」
また俺の前を進んでいく。
頭を掻く。そこにはお礼の余韻がまだ残っていた。
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