side:雲英 律貴
正直言おう。おれは
というより勝手に嫌っていた。響は気付いてなかったかもしれないけど。
小学生低学年、テレビで見たバンドのベーシストに強烈な影響を受けベースを握った。そこからひたすら練習し、中学に入る頃には身の回りの大人から「才能がある」と言われるようにはなった。
今考えると、そう言われて当たり前だと思う。
なぜなら、そんな小さい時から音に魅入られた人間が他に居なかったから。子供がバリバリにベースを弾いているのを見れば誰でも「才能がある」っていうだろう。
これは音楽の才能じゃない、継続した時間の力である。
そんなある日、「週末、ミライズ広場に音楽好きが集まってイベントをしている」という噂を聞いた。周りからもてはやされ、ハリボテのプライドで構成されたおれは自分の才能を披露してやるという気持ちで、噂を聞いたその週にイベントへ乗り込んだ。
そして。
おれは本物に出会う。
本物の音の【才能】があるやつに出会ってしまった。
やつの名は
彼はミライズ広場に居る誰よりも上手く、誰よりも音楽を心から愛し、全力で音を楽しんでいた。
ステージに上がれば弦を弾く音の一つ一つで聞く人を引き付ける。
その音と全力で楽しむ姿は見る人の視線を集める。
コウおじさんから同学年であると告げられた時、おれのハリボテのプライドは直ぐに砕け散った。驕っていたおれの全てを否定された気がした。扱う楽器は違えど力で捻じ伏せられた感覚になった。
おれは所詮、お山の大将なのだと。
そこからおれは元々無い何かを取り戻すため、何かあるたびに響へ突っかかっていった。
演奏できる楽曲の数。
一日で頼まれた伴奏の数。
その日食べたごはんの量まで。
ホントにくだらないことまで競った。
そして一年程経ったころ。
「え?音が……」
ミライズ広場で演奏中、おれが愛用していたベースが壊れた。生まれて初めて自分のお小遣いだけで買ったベースであり、おれの音楽を支える半身のようなものであった。それを失ったと思い、おれはステージを降りてから涙を堪えることで精一杯だった。
そんなおれの元へ彼がやってくる。
「うちで治せるかも」
おれは、楽器の修理に詳しいコウおじさん、その娘の琴と一緒に修理機材がある響の家の地下スタジオに向かった。
そこでおれは彼のオリジンに触れる。
地下スタジオにある遺品を前に彼の過去を教えてもらった。正直返す言葉もなかった。唯一話題逸らしのために聞いたこと。
「いつもどう練習してるん?」
「こうだよ」
そう言った彼はスタジオの一角にある小さなモニターを点け、ギターをイヤホンを準備する。点けたモニターからはエアプライズのライブ映像。
彼はそのモニターの前に立ち映像に合わせて弾き始める。
モニターに残る死んだ父の影を講師としていたのだ。
完コピした今はもうしていないらしいが。
狂ってる。そうとしか言えなかった。
そして気付いた。
彼はおれが自分に驕っている間も父の影を追い鍛錬し、その夢を背負い続けてきたのだと。
響のことを【才能】と言い纏めた自分を殴ってやりたい。きっと才能は自身の力で目覚めさせるものだと体感させられた。
全てを理解した時、おれは思った。
強くも細く、危うさのある弦のような響という男を支えてやるのだと。
そんな時、起こった高1の時の件。その日からステージで楽しむ響が消えた。
おれは彼女の静止が無かったら軽音部に殴り込んでいただろう。
あの響を取り戻そうと試行錯誤を続けた一年間、遂に彼を縛りから解放した人が現れた。
ステージを楽しむ響を捉えたバズったあの動画は擦りに擦った。
そして今に至るサポートメンバーの件。
おれに断る理由などない。
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