第10話:求む!サポートメンバー!!


「珍しいやん、おれに聞きたいことって」


「いや、これなんだけど……」


 週末のミライズ広場、俺は友の雲英きら 律貴りつきに先日の出来事を話をしていた。俺と律貴、ミライズ広場の伴奏者二人が一枚のチラシを覗き込む。まぁ俺は今週ずっとこのチラシと睨めっこしていたわけなんだが。


「バンド合同ライブin城跡ハウス?」


「そう、こないだの路上で声掛けられたんだよ」


「ふーん、面白そうやん。でも響がこんなのライブハウスに出るなんて珍しいな」


「いやぁ、それが……」


 言葉が途切れる。

 沈黙が流れる前に途切れた言葉を上書きする、聞き覚えしかない声がした。

  

「ねっ!琴ちゃん!ボクと遊ぼうよ!」


「ちょっと飛咲さん!まだ仕事が残ってますから待ってください!ひ、引っ張らないで!」

 

 ミライズ広場のステージ横で委員長モードの琴に執拗に絡む元凶歌乃を見る。今日のミライズ・ストリートマイクも盛り上がっているようで琴はかなり忙しそうではあるが、歌乃にとってそんなこと関係なかった。

 歌乃のマイペースさに勝てる人なんていないのである。



 「ライブハウスで演奏しない?」此の誘いに俺は断ろうとしていた。何故なら客が求めるニーズが違うから。バンドならではの音の数、低音の圧、表現力の多様さを求めている客に対して、ギター一本の音は場違いである。例え俺がいくら頑張ろうと浮いてしまうのは間違いない。

 だがしかし。


「え!やります!やります!」

「ちょっと歌乃!」


「あ、本当ですか!ありがとうございます!!それではこのチラシとこの紙にサインをお願いします」


「はーい!」

「……」


 まぁ、止め切ることができなかった俺も悪いのだが。



 俺と同じく琴と歌乃を見ていた律貴が笑う。


「なんとなく察したわ。ちゃんと見たの今日が初やけど、お前の相棒・・・なんか凄いな」


「何も言えねぇ……」


 確かに凄い奴だが律貴が言うのは別の意味だろう。

 

「だからおれに相談ってことか」


 律貴は真剣な顔になり、腕を組む。

 彼はミライズ広場で伴奏してはいるが、此処で得た繋がりから様々なバンドで助っ人として活動もしている。だから相談を持ち掛けた。


「申し込んだものは仕方ねぇ。合同ライブってことやから持ち時間は大体20分ってとこやな。まぁ間違いなく二人だけじゃキツイやろな」


「だよな、だから」


「「」」


 二人の声が重なる。少人数ユニットを始め、多くのバンドに必ず居ると言っても過言ではない非正規メンバーの総称サポートメンバー。

 俺と歌乃だけでは場違いになる舞台でもサポートメンバーの力を借りれば超えることができる。コウおじさんをサポートメンバーにしていた父のように。まぁ、そもそも彼女歌乃は場違いなどの考慮は気にも留めてないのかもしれないが。


「俺と歌乃、後はベース、ドラムかカホンのパーカッションを最低限としてあと一人ぐらい。全部で三人ぐらい欲しいよな」


「せやろな。それくらいやな」


 俺の前に居るベーシストが同意を促す。


「まぁここからが相談の本質なんだけど」


「おう、どうしたんや?」


 これから俺が言おうとしていることを察している癖に、律貴はワザとらしく言葉を返してくる。チラシを見てから今日まで悩んだ結果、誘うことを決意していた。


「律貴、ベーシストとしてサポート頼んで良いか?」


 友は笑みを浮かべる。


「ええよ。でも俺は高いで?」


「ちなみにいくら?」


「せやな、路上のチップ一回分やな」


「なんだよ、その中途半端な感じ」


 受付から声がかかる。

 それと同時に歌乃がこっちに走ってくる。

 既にフードを被っているということは、そう言う事だろう。


「ボク、歌いたくなっちゃった!響くん!お願い!!」


「はいはい」


 返事中に腕を引っ張っていくのは乱暴じゃないですか歌乃さん。

 そんな俺を面白がるように見ていた友が立ち上がる。


「なぁその曲、おれも参加してええか?」


「ん?いいよ!一緒に楽しもう!!」

 

 始まったサポートメンバー探し。その一人目、ベーシスト雲英きら 律貴りつきが仲間となった。



 バンド合同ライブin城跡ハウス、開催まであと一か月。

 

――――――――――


「あの子、先週も歌ってた子じゃないか?」

「また聞きたかったからラッキー」


 歌乃の歌声はいつ何時も人の心を掴んで離さない。

 だが、もうそれだけではない。


「ギターとボーカルどっちが主役か分からんな」


 響のギターも歌声に負けじと主張する。

 集まった人々は彼らの演奏に感嘆する。


「ベースが入ると安定感が違うな」


 今週はそれだけではない。

 音のリズムを律するベースが彼らを底上げして支える。


 そんな演奏を眺める一人の少女が居た。

 正確には歌乃に見惚れている淡いピンクのポニーテールが風で揺れている少女が居た。


「音楽っていいな、私にも何かできないかな。待て待て私、あんな格好いい女の子と一緒に何かって考えちゃダメ!そ、そう!壁、壁ぐらいがちょうどいいのよ!」


 小さく呟き自問自答をする少女が訳の分からないことを言う。

 音楽がしたい。

 その心は既に歌乃によって墜とされていた。


 曲が終わる。

 少女の身体は心と裏腹に歌乃の元へと駆け出していた。

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