side:飛咲 歌乃


 壁に掛かったギターと汚れたハードケースが視界に入った時、あの日がフラッシュバックする。

 あの日のが心に蘇る。

 

「あぁ、それね、父さんの形見。触らないでね」


「あっゴメン……」


 彼の声にが帰ってくる。

 

「もうずっと前の事だから気にしなくていいよ」


 君は強いね。ボクなんかよりもずっと強い。

 

 ギター周りの写真を始めとする軌跡が私を揺るがす。

 うん知ってる。ボクは知ってる。

 だけど、聞かないとボクとして筋が通らないからね?


 でも、その先は私が聞きたくない。

 我儘だよね。私。


「ボクね、実は君の事を一年前から知ってたんだ。直ぐに消えちゃった、とある動画でね」


 ううん、それよりも前から知ってるよ。

 であるため、半分の嘘を吐く。

 だって、君は私なんかよりボクの方がいいでしょ?


 いつでも思い出す。

『おんがくと、おなじだよ!もっといこうよ!』

『う、うん!』

 音楽に引かれた幼き子供たちの情景。

 これが歌乃のオリジン。

 これがボク仮面のオリジン。


 でも、ここからは本当。

 お母さんの仕事の都合での海外生活を転々。

 友達は出来たけど、その土地でお別れ。

 ウェールズの高校では、歌を通じて友達は居たけどボクの横に立ってくれなかった。彼らと見てる先が違う、そう思った。


 消えていった憧憬を追うボクは、音の研鑽けんさんを辞めることはなかった。

 きっと現れてくれると信じていたから。




 そんな時、あの動画を見たんだ。いやぁ運命って凄いね。

 その名前を過去に上書きで焼き付ける。


 こんなこと、君に言う必要なんてなかったのかもしれない。いつものボクみたいに明るく照らせばよかったのかもしれない。

 だけど、傷が私を呼び覚まし言葉で隠そうとしたのだろう。


 君は仮面の嘘つきを知った時、怒るかな?

 でも今だけ許して欲しいな。


「ボクのバディになってくれない?」

「いいよ。組もう、歌乃」


 あーあ、また救われちゃった。

 ボクは君に何を返していこうかな♪

 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る