第6話:音が紡ぐ二人
歌乃は俺の家の前で別れて30分もかからずして再び戻ってきた。
マンションの距離的に大体予想は出来ていた。
制服から着替えた彼女は、黒をベースとしたモノトーンコーデで、何と言っても特徴はウサギの耳が付いたフード付きパーカーだろう。初めて会った時といい、フード付きパーカーが好きなのかもしれない。
「おまたせ、遊びに来たよ♪親御さん居たりするのかな?」
「いや、今日は県外で公演だから夜まで居ないよ。まぁ、だからというわけじゃないけど、入って」
「そっかそっかぁ、それじゃ!お邪魔しまーす!」
俺は用意していた、地下室へ直行できる階段に案内をする。
何故なら、いきなり家に入れるより、多くの人が使用する地下スタジオに入ってもらう方が俺の心が楽だからだ。
「わぁ!すっごーい!!」
歌乃の語彙力が消滅する。
それも無理はないだろう。様々な楽器があり、収録まで行えるようなスタジオ何て普通の家では見ることのできない。
スタジオに驚いていた彼女が靴を脱いで上がり、唐突にスタスタと歩きだす。その先には壁に掛けられた一本のギターと汚れたギターのハードケースがあった。
歌乃はそれをただただ眺める。
「あぁ、それね、父さんの形見。触らないでね」
「あっゴメン……」
「もうずっと前の事だから気にしなくていいよ」
いつも明るい歌乃が少しシュンっとする。しかし、直ぐに気を戻し、父の形見に一瞬だけ合掌をした。
その形見の周りに広がるエアプライズの栄光、その痕跡たち。
青の広場でエアプライズの曲を選曲する彼女の事だ、ファンだったってことも考えられる。だから直ぐに気付くだろう。
正直隠せないと思うし、家にあげる時点で覚悟もしていた。まぁ、あんな失礼なことを言ったりしたのだ、その上で隠し事をすることに俺の心が耐えることができない。
それと、あともう一つ理由はあるけど。
「君のお父さんって……」
「そうだよ。空奏
「言わなくていいよ。うん。いわなくていい、、よ。ごめんね、こんな話を君にさせちゃって」
俺の言葉を遮り、歌乃は早口で話題を切る。その声はどこか震えているかのようにも感じた。続けて彼女がポツリ、ポツリと話し出す。
「ボクね、実は君の事を一年前から知ってたんだ。直ぐに消えちゃった、とある動画でね」
心当たりがある。ありすぎる。軽音部の時の動画だ。
喋るにつれ、歌乃の調子が戻そうとしている。重い空気だったのを気にしているだろう。
「んで、その動画の君を視て思ったんだ。この人とならボクと対等に組めるかも?って、だから動画に載ってた名前を憶えてたんだ。まぁ、同じ学校に編入したのは本当に偶然だったんだけどね」
恥ずかしさを隠すように空色の髪を弄る。もしかしたら、彼女も俺と同じだったのかもしれない。
「だから、嬉しかったんだ!あの広場で君を見つけたのが!・・・だ、だからさ!」
歌乃は、声とは裏腹に今まで見せたことのない、儚い表情で俺を視る。口元は何か恐れるかのように震え、雫は落ちていないが瞳はこれほどまでにないほど光りを見せる。
「ボクのバディになってくれない?」
俺は、あの時の言葉を再び聞いた。意味としては全く変わっていないが、あの時とは感じ方が違う。腹を割った互いの言葉は重みを得る。
正直、これがもう一つの理由であった。
俺としても彼女と組むことに対して前向きではあった。あんなステージをしたんだ、当たり前の感情かも知れない。だが、俺の
しかし。
もう、答えは得た。
「いいよ。組もう、歌乃」
地下スタジオの空に目掛け、歌乃は大きくガッツポーズをする。
それは、さっきまでの空気を切り裂いてくれるかのようであった。
――――――――――
時刻は14時。俺は遅めの昼食を二食分つくり、地下にあるスタジオに向かっていた。家で昼食を食べ忘れていた歌乃の分も用意していたのである。
「ありがとー!いただきまーす!」
用意したのはサンドウィッチ。冷蔵庫に残っていたハムとレタスを挟んだ簡単なものだ。それを彼女は幸せそうに頬張る。どれだけお腹空いてたんだよ。
それを横目に俺もサンドウィッチを口に含む。
さてと、組みはしたけどどうしたものか。
何をしようか。まぁ方針を決める為にも聞くべきだろう。
「なぁ歌乃。今更なんだけど、俺と組んで目指す先は?」
少女は、口に含んでいたサンドウィッチを飲み込み答える。
「そりゃあ、夢はでっかく!行こう武道館!!」
そう言い俺にピースをし、再びサンドウィッチを口に含む。
「ははっ、それはデカくてイイね!」
歌乃の明るさに思わず笑みが零れる。
組んで正解だったかも知れない。そう思うには余りに早いが、彼女らしさ全開の回答は俺にとってそれだけ価値があった。
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