第5話:編入したてって不安でしょ?


 

 高校の屋上。普段人が来ない場所にて、いつもの屋上組二人が僅かに出来た影に身を寄せて話をする。


「んで、昨日ミライズで会った子が転入生だったわけ?」


「そゆこと」


 例のプチ事件があった後に行われた始業式。廊下側に空いた席に座った空色の少女は、隣になった琴と話しながらもチラチラとこちらを視ていた。正直、今まともに会話できる気もしないし、また、編入生と絡むことで発生する注目のヤな視線を集めたくもない。

 でも、恐らく彼女は始業式が終われば真っ先にこっちに来るだろうと思っていた。というか、眼で訴えてきてはいる。「そっち行くからね」と。

 俺は決意する。


 よし逃げよう。


 始業式が終わり、休み時間に入ると同時に窓際最後方からスタートを切る。

 空色の彼女はというと休み時間のチャイムが鳴ると共に他のクラスメイトや他クラスからの野次馬の波に飲まれ「ちょ!?ひびきくん!まって・・・・」と声が途切れていったが関係ない。逆にあんなとこで止まったら、野次馬たちに関係を問い詰められ面倒なことになるのが見えている。

 彼女には少し申し訳ないが、俺は教室を後にした。


 そして屋上へと至る。


「もしかして、昨日ミライズでバズってたか」


「……………」


「いやいや、ひびきさんよ。あれでバズらないって思ってたのかよ」


「いやぁ、あそこまでやることになるとは思わなかったから……」


 中学からの付き合いである雲英きら 律貴りつきは、俺にSNSに投稿されたを見せる。

 まぁ、予想するまでもなく昨日のステージの動画だ。既に多くの人が拡散しており、コメントなども寄せられている。

《すごーい!》

《えぐ……》

《歌もギターもレベル高すぎwww》

《二人とも顔が見えねぇ》

《エアプライズの再来か!?》

《ワンチャン二世だったりしてwww》

《流石にそれはないだろ》


 はい、二世です。


「いやぁ、こんな面白いことになるならデート中でも行けばよかったわ」


「やめてくれよ律貴……」


 俺の横でバズった例の動画を見る彼も、ミライズ広場で伴奏者をする一人である。グレーの短髪が特徴の彼、律貴の楽器はベース、パーカッションを扱う、いわゆるリズム隊と呼ばれるメンバーだ。あと、何故か彼女持ち。なんでだよ、ベーシストは変態なんじゃねぇのかよ。閑話休題。


「ひびき、今日はやるん?」


「そうだね、学校も昼に終わるし」


「良いぐらいに小遣い稼げたら、また奢ってくれ」


「ヤダよ」


キーンコーンカーンコーン


 予鈴が鳴る。


「ホームルーム始まるし戻るか」


「せやね。ひびきはクラスを楽しんで?」


「はぁ……」


 律貴と別れ、教室へ戻る。

 さっさと自分の席の戻れば問題ないだろうと思っていた。

 しかし。


「な、なんで……」


「やぁ!響くん、いや相棒マイバディ。ボクがあのまま逃がすと思った♪」


 空色の少女は俺の席の横の席に座り、笑う。屋上に行くまで俺の席の横に居た子は空色の少女が元々居た席に座っていた。

 ……知らない人のふり。

 ……知らない人のふり。


飛咲ひさきさん?なんで此処に?」


歌乃かの……」


「へ?」


「ボクの名前!」


 それは自己紹介で聞いたから知ってる。

 こいつは何を求めているんだ……

 まさか……


「歌乃さん?なんで此処に?」


「…………」


 はぁ……


「歌乃、なんで此処に?」


「えっとね。編入したてで不安だから知ってる人の横にして?って先生に言ったら変えてもらった!」


 ……嘘だろ?

 いや、不安なんて微塵も思って無いでしょ!?


 思わず周囲を視る。

 あぁ、物凄い視線だ……

 特に話したことのないクラスの男性陣全てから、身体に突き刺さって貫通するのじゃないかと思うくらい強い視線の槍が飛んでいる。

 琴も死んだ目をするのをやめてくれ。


 昼過ぎ、ホームルームが終わり、学内で昼食を経て、委員会、部活動へ向かう者や早々に帰宅し、自身の好きなことをしようとする者に分かれる。俺はもちろん後者である。

 琴は委員会、律貴は部活動でそれぞれ学校に残っているため、いつも通り一人で帰路につく……予定だった。


「…………」


「ん?どうしたの♪」


 俺の少し後ろを空色の少女が引っ付くようについてくる。


「なんで居るの?」


「んー、相棒バディだから?」

 

 問いに対して疑問形で返さないで欲しい……

 てか。


「俺、まだ組む何て一言も言って無いよね?」


「……」


 俺の言葉に対し、歌乃は口をパクパクさせている。

 そんな驚くことなのだろうか?


「だってボクたち、あんなに良いステージできたんだよ?あれで組まないって方が可笑しくない?」


 何時になく動揺する少女が響に問いかける。


「いや、正体も分からない人と直ぐに組もうってならないでしょ?逆に?」


「ぐぬぬ……」


 ぐぬぬって本当に言う人っているんだ。

 

「あ、あと!ボクの家もこっちの方だから!!」


「はいはい。」


 もう、好きにしてほしいと思い軽くあしらう。

 頬を膨らまし、必死の抗議を訴える少女はそのまま俺について歩く。


 自宅に着く。まだ少女は着いてきていた。

 はぁ……とため息を一つ挟む。


「ここが俺の家だから!もう、ついてこなくてもいいでしょ?」


「そっか!ここが君の家なのか。フフッ、ボクの家と近いね!」


「え?」


「ボクの家、あそこだから」


 少女が指を指す。その先には、丘になっているこの団地の頂点に立つ高級マンション。しかもその上の方最上階

 ヒュっと肺から空気が抜ける。冗談だと思っていた・・・。


「か、歌乃……その、ごめんなさい」


「ん?あぁいいよいいよ!その代わり、直ぐ遊びに来るね♪」


 そう言い残し、少女は駆けて行った。


「そりゃあ無いよ……断れるわけがない……」


 

 


  


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