第4話:ほら、また会えた
ジンジンと痛む指を噛み締めたあの日の夜
俺は不思議な夢を見た。
三人の小さな子供が玩具の楽器で遊んでる。いや、正確には二人か。
「ねぇ、あそばないの?」
「うん、おんがくは、いや、、、ぱぱをつれてくから」
「ふーん、じゃあ、ぱぱと、おんなじことしたら、いっしょになれるんじゃない?」
「え?」
戸惑いをみせている子供を、もう一人の子供が腕引いて連れて行く。
二人の行く先ではもう一人が玩具の楽器を片手に待っていた。
「あっ!やっときた!はやく、あそぼ!」
「うん!んじゃ、これもってね」
「あ・・・うん」
引かれて来た子供はモジモジしながらも玩具を手にする。
初めはぎこちなかったが時間が経つにつれ溶け込んでいった。
――――――――――
「ひーびーき!起きろ!学校だぞ!」
朝から聞きなれた声が脳を刺す。
チカチカする瞼を上げ目にかかる前髪の隙間から、いつもの天井と俺の顔を覗き込んでいる制服姿の
スマホを充電から抜いて時間を確認する。・・・寝坊ではないが、まぁぼちぼち急ぐ必要はありそうだ。
「ん~、はぁ。おはよう琴。今日は母さんと朝練の日だったか?」
「そう。あと次いでに
一体どこから出てきたのか分からないが琴がハリセンを手にもっていた。
「おい……そのハリセンはなんだよ」
「ん?じゃあキーボードの方が良かった?」
「いや待て、それは死ぬだろ」
死にたくはないし、急ぎたいので起きることにした。
何故、琴が俺の部屋にいるのか。
それは琴が週に何度か地下室のスタジオで、早朝から俺の母にピアノを教えてもらっているためである。
俺の母、空奏
琴には部屋から出ていってもらい、制服に着替える。出ていく際に「二度寝したら次は叩き起こすから」と言い残していった。本当に怖いから止めてほしい。
着替えを終え、朝食に向かうと母と琴は既に朝食のサンドウィッチを半分ほど食べ終えており、置いてかれまいと俺も急いで食べる。
家を出るころには俺の支度も何とか間に合った。
母に「いってきます」と二人で告げ家を出る。
歩いて通学を始めた俺達は、直ぐに距離を開ける。
クラスの代表である委員長と、どこにでもいるパッとしない男子高校生。これが俺達の学校での関係だ。
幸いにも、俺の家は比較的格式高い団地にあるため付近で同世代に会うことはないが、この距離感を崩すことはない。
15分も歩かずして学校に着く。教室では、夏休み明けということもあり、辺りから「だりー」「帰りてー」などの声が飛び交っていたが、それもすぐに止んだ。
一つ、知らない空席がある。教室に着いてから周りと話すことなく、窓際一番後ろにある自分の席に着いていた俺は直ぐ気付いていたが。
「え?編入生?」
「いや、ただの空席かも」
「流石にそれはないでしょ」
「可愛い子かなぁ」
「おい、まだ女子って決まったわけじゃないだろ?」
「でも気になるじゃん!」
教室に漂っていたネガティブな雰囲気が急にお祭り騒ぎになる。
正直うるさい。
耳が痛い。
「騒ぎすぎ!楽しみなのはわかるけど他の教室からクレームがきますよ?」
「「「はーい、委員長……」」」
この騒ぎを琴がたった一声で沈める。流石、二年連続で委員長をやっているだけある。もはや風格まで漂っている。
「っ!?」
「……」
ナニモ、イッテマセン
物凄い反応で琴に睨まれた。何も言っていないのに超能力者なんだろうか。
キーンコーンカーンコーン
チャイムが鳴る。始業式は教室のモニターで行われるので体育館などへの移動の必要はなかった。
教室のドアが開き、担任が入ってくる。細身の眼鏡を付けた中年男性だ。
その音に反応し、さっきまでざわつていた教室に緊張感が走る。
俺は、そんな緊張しなくていいのにと思う。うちの高校は勉強さえできたら編入自体難しくない。毎年学校全体で一人二人は編入してくる人はいる。まぁ、その勉強のハードルが高いのだが。
「えー、みなさん、お気づきかと思いますが、今学期から編入生が私たちのクラスにやってきます。仲良くしてあげてください」
「ホントじゃん」「まじかよ」「楽しくなるじゃん」
担任の言葉に教室は再び騒めく。
「静かに。早速入って来てもらうから、騒がずに自己紹介を聞いてあげてくださいね。……それじゃあ入ってきてください」
「はーい!」
あぁ、女子の編入生かと、声を聞いたこの時はそうとしか思わなかった。
しかし、教室に入ってきた女子の髪が見覚えのある色だと、一番後ろの席からでも気づき、俺の表情筋が凍り固まる。
正直、目を背けたい。
肩ほどまで伸びた綺麗な空色の髪、ブラウンの透き通った瞳。鼻筋の整った顔立ち、全てに見覚えがある。何なら昨日。
思わず、教室の前の方に座る琴の方を見たが……あぁダメだ、後ろ姿でわかる。
「みんな、おはよう!イギリスのウェールズから来ました!
おい、頼むから俺の方を視てウインクしないでくれ。
あぁ、頭が痛くなってきた。
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