2章:音で気付く二人
第7話:あー、はずかし
「ごちそうさま、ボクの分までありがと!君って料理も得意なんだね!」
満足そうにお腹をさする歌乃。俺の向かいにあるソファで完全に寛いでる。
「そりゃ、どーも」
サンドウィッチぐらいで褒められても少し困る。だけど、サンドウィッチを頬張っていた彼女を視て、改めて美人だなと思う。顔立ち然り、綺麗な空色の髪然り。
あと、何も要らないこと言わなかったらね。
「次はデザートかな?」
「あるわけ無いだろ・・・」
ほら要らないことしか言わない。
彼女も調子に乗ったことを自覚しているようで「アハハ」と言いながら頭を掻く。
俺は、サンドウィッチを此処まで運んできたトレーに空の皿とコップを乗せる。
「今からコーヒー淹れるけど要る?」
「んー……砂糖多めでお願い!」
「ん、了解っと」
椅子から立ち上がり、向かいのソファに座る歌乃の空いた皿とコップを回収しようとする。皿を取るため身を少し屈めた時。
「ちょっと待って!」
歌乃が俺に声をかける。俺は言われた通り、まるで美術館の彫刻になりきるかのように身体を硬直させた。
彼女は「クスっ」と悪戯をする子供の様に笑みを零しながら、手を座ったまま伸ばす。そして指を俺のくt、、ちょっ。
「な、なんだよ!?」
「これ、付いてたよ?」
歌乃は俺に指を見せる。そこにはサンドウィッチの淡い色をした辛子マヨが付いていた。
そういや、口を拭くのを忘れていたと思い出す。
「君って意外にかわいいところあるね!」
歌乃はそう言い、指に付いた辛子マヨを口に入れた。
「ちょ!?」
俺の顔が発火しかける。初めて会った時から思っていたけど、
「どうしたの、そんなに顔を赤くしちゃって?これくらいのスキンシップ、
「た、頼むから揶揄わないでくれ……」
歌乃の皿とコップを回収し、逃げるかのように地下スタジオを後にする。
海外では、あの距離感がスタンダードなのか・・・。
全く俺の知らない世界、恐ろしいところだ・・・。
熱い頬の余韻は解けることなく脳を焼く。
「淹れるならキンキンに冷やしたアイスコーヒーだな」
響は誰にも聞こえない言葉を階段に残し、コーヒーの準備に向かった。
一方そのころ。
「//////////」
地下スタジオに残された空色に夕陽が昇っていた。
ソファに座ったまま足をパタパタとさせ、ウサギ耳のフードを深く、深く被る。
それだけでは足りないのか、ソファに置いてあるクッションに顔を埋めた。
「ッ~~~///]
声にならない叫びが地下スタジオの防音壁に吸い込まれていく。ソファに上体を横にして悶え、足の動きも勢いがつき早いテンポを刻んでいた。
ガンッ!
「いったぁぁぁぁい!」
パタパタしていた足を机にぶつける。
先程まで元気だった足は、その勢いを失い
「私、バカだぁ」
――――――――――
――――――――――
――――――――――
俺がコーヒーを淹れて地下スタジオに戻ると、ソファで黒いウサギが
俺を揶揄っていた姿と全く異なる
「な、何してるの?」
「あ、あしぃ」
「足?」
「足ぶつけたぁ」
ただの
ため息を一つとコーヒーの乗ったトレーを地下スタジオに残し、アイシングのための保冷剤とタオルを取りに行く。
地下スタジオに戻り、少し回復したのか上体を起こして足をさする黒いウサギに保冷剤にタオルを巻いたものを軽く投げてパスをする。
歌乃はそれを丁寧に、両手で受け止めた。
「ありがとぉ、ボクの
「はいはい」
砂糖多めに入れたコーヒーをアイシングする彼女の前に置く。ウサギのフードを脱いだ空色の髪が乱れている、かなり
足にアイシングを当てながらコーヒーを飲む歌乃の様子を見ながら、俺もコーヒーを飲む。さっきまでの出来事との起伏に思わず口元が緩む。
「む?今、ボクの姿視て笑ったでしょ?」
「ゴメンって」
歌乃は頬を膨らませ無言の抗議を行う。
その抗議も長くは続かず、直ぐにコーヒーを楽しんでいた。このマイペースさは見習った方が良いのかもしれない。
――――――――――
コーヒーを飲んで少し落ちついたタイミングで、俺は思い出し時間を確認する。路上ライブの時間が近くなっていることに気付く。
路上ライブを行う際には、その場所を管轄する警察に許可を貰う必要があり、時間も指定されている。俺はいつも同じ場所で路上ライブをしているため警察の人とも顔見知りになり始めてはいるが、それでもルールは守らないといけない。
そろそろ準備しなくては。しかし。
コーヒーを飲み終え、地下スタジオを好奇心に身を任せ散策する歌乃を視る。まぁ連れて行くしかないだろう。
組むって言った手前でもあるし、これで連れて行かなかったら面倒なことになるのが見えている。
「なぁ、歌乃」
「ん?どうしたんだい響くん?」
音響機器を視ていた彼女が勢いよく振り向く。
「今から路上するけど、来る?」
「もちろん!!」
歌乃は今日一番の声と笑顔、眼の輝きで即答した。
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