第4話

「てめぇ! ど、どうなってんだよぉ!?」


 転校してきた超人気Stuberが、

 その学校のとある男子生徒と、いきなりカップル配信をしていくと宣言した。


 お祭りのような騒ぎになった教室で、

 人垣を割って賢太に近づいてきたのは、

 賢太をイジメているグループのひとりである、真田玄だった。


 いまや教室はおろか、学校中の話題の中心にいる賢太を

 真田は恨みがましく睨みつけた。


「ゴキガミのくせに、調子乗ってんじゃねーぞ!?

 だ、だいたいアンタも、こんなやつのどこがいいんだっつーの!」


 そう言って、真田が賢太の首元に、無造作に腕を伸ばした。

 

 だが次の瞬間、ミーティアの雰囲気が一変した。

 

 目にも止まらぬ速さで真田の腕を掴むと、

 そのまま捻り上げ、床に組み伏せた。


「いでででででっ!? なにすっ―――!?」


「わたしの王子様に、勝手に触んないでくれるかなぁ?

 だいたいこんなやつって、まさか賢太のことじゃないよねぇ。


 あはっ、だとしたら――ガチで許せないかもぉ☆」


「……!!」


 美しい少女が向ける冷酷な視線に、真田はおろか

 周囲の誰もが息を呑み、動けなかった。


 だが、


「離してあげてよ……天星さん。

 真田くんが、だ」


 賢太は言った。

 決して皮肉ではなく、純粋な良心から出た言葉だった。

 

 だがそれを聞いた真田の額に青筋が走る。


「うん、わかった!☆

 わたし、賢太の言うことならなんでも聞いちゃうんもねー。

 なんたって、これからアツアツのカップルになるわけだし!」


「それについては、追々話すとして……」


 賢太が言いかける横で解放された真田は、

 今にも血管が切れそうな赤い顔で、賢太とミーティアを睨んでいる。


 教室のどこからか、クスクスと笑うような声が聞こえた。

 それが真田にさらなる屈辱を与える。


「て、テメェ! マジでイキってんじゃねーぞ……!!

 聞けばダンジョンでたまたまいいカッコできただけじゃねーかよ。

 ケッ、くだらねぇ……!」


 真田は自分の立場を維持するために、

 賢太の株をなんとしてでも下げようと必死だった。


「だいたいなぁ!ダンジョンでモンスターぶっ倒すぐらい、

 誰にでもできんだよ!

 オレだって前に1回潜ったことあるしな。

 はっ、そんときもショージキ余裕だったぜ。

 D級だかのモンスターもワンパンだったからな」


「じゃーさ、どっちが強いか、試してみたら?」


 ミーティアが、突然そんな提案をした。

 

「ダンジョン行ってモンスターと戦って、どっちが強いか

 はっきりさせればいいんじゃないかな?

 あ、もちろんわたしは賢太を推すんだけどね☆」


「……!!

 い、いいじゃねーかよ、ああ、やってやるよ」


 真田は沸騰寸前という顔で、ミーティアの提案を了承した。

 

「あ、もちろんその勝負の様子は、

 わたしのチャンネルで1000万人の視聴者に届けちゃうからね☆

 あぁ!記念すべき私と賢太のカップル配信第1回目!

 応援してるからね、賢太!

 わたしのお・う・じ・さ・ま♪」

 

 星が輝くミーティアの瞳の中には、賢太しか映っていなかった。

 賢太は、はぁ……と、曖昧に頷いた。


 気乗りはしなかった。

 そんな勝負、またイジメが加速するかもしれない。

 

 賢太は、この時点においてもまだ、

 まったく自覚がなかった。


 素手でS級モンスターを殴り殺せる自分が、

 どれほど異質な存在であるかということを。

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