第5話

「キラミー☆

 みんなー! この前はびっくりしたと思うけど、

 今日からわたしと賢太のカップル配信やってくよ~!」


 ダンジョンの奥地で、

 天星ミーティアはドローンカメラに向かって

 超新星爆発のような笑顔を向けていた。


 同接数、50万人以上。

 

 ミーティアのチャンネル登録者数は、先日のカップル配信宣言以降、

 さらに加速度的に増加していた。

 もちろんそれは炎上的な側面もあったが、

 炎上してもなお、人々の注目を否応なく集めてしまうほどの人気が彼女にはあった。


「はぁ……」


 賢太はまったく乗り気ではなかった。

 こんなことをして、自分になにかメリットがあるとは思えなかった。


「っしゃあ! オレ様の実力見せてやるぜ!」


 真田は刃の大きいハンドアックスを手にしている。

 ダンジョン内で採取できる特殊素材で作られた、

 一般的な対モンスター用の武器だった。


 一方、賢太は徒手空拳――つまり素手だ。


 それを見た真田が嘲りの声を上げる。


「はっ! 貧乏なゴキガミはろくな武器ひとつ買えねーのか!

 こいつは傑作だな!」


 賢太は無言で答えた。

 あながちそれは、間違いでもない。

 武器防具だって今では高校生が買える程度とは、金はかかる。

 剣であろうと斧であろうと、刃こぼれすればメンテナンスの費用もかかる。


「それじゃあ、記念すべき初企画は……

 なーんとミーティアがこの日のために捕獲して準備してた、

 SSのモンスターと戦ってもらっちゃうよ~☆」


 そのときダンジョンの暗がりで、巨大な影が蠢いた。

 

 巨大な三つの首を持った猛犬の怪物が

 突如としてその場に出現した。


 その爪も、牙も、それひとつだけで人間並みの大きさがある。


「――――――――は?」


 先ほどまで意気揚々としていた真田と態度が、一変した。

 一瞬で青ざめ、その場に立ちつくす。


「な、なんだよこのデカブツは!? き、聞いてねーぞ!

 こんなの、俺の知るモンスターじゃ……」

 

「SS級……ケルベロスか」


 一方、賢太は淡々と呟いた。


「じゃあ……バトル開始ね☆

 賢太ー! わたし、賢太だけを見てるからね!」

 

 著しく公平性を欠いたミーティアの熱烈な視線が向けられるなか、

 ケルベルスが咆哮した。


「ひっ……!」


 真田は一目散に背を向け、その場から逃げ出した。

 だがそれを都合の良い得物だと察知したケルベロスが、跳躍した。


 真田の行く手にケロベロスが着地する。

 巨体からは信じられないほどのしなやかな動き。


「く、来るなぁ……!」


 真田が手斧をやみくもに振るう。

 だが、鋼のようなケルベロスの体毛がそれをたやすく弾き返す。


 真田の顔に絶望が浮かび、次の瞬間には真田は失禁していた。

 だがケルベロスは容赦などしない。

 前足で真田を圧し潰し、自分の足元に押さえつけた。


「だ、だれかたすけ――」


「――おまえの相手は、こっちだ」


 ケルベロスの顎が真田をかみ砕く寸前、

 賢太はケルベロスの背後に回り込んでいた。


 ケルベロスが遅れて振り向く。


 SS級モンスターですら感知できない俊足の移動。

 それは異形の怪物すらも戦慄させた。


 本気の咆哮の後、ケルベロスがその爪で賢太を薙ぎ払う。


 ――だが、それは賢太の残像だった。


 一瞬でケルベロスの懐に潜り込んだ賢太は、

 巨大な顎を下から打ち抜いた。


 ケルベロスが、まるでロケットのように上方に弾き飛ばされ、

 天井を貫いた。

 

 世界が止まったような静寂が横たわる。


「おまえを倒したのは……確か、これで100匹目だ」


 ミーティアが歓喜の悲鳴を上げた。


「み、皆見てる……? ほんとに、ほんとにすごい……。

 聞いたことある? 素手でSS級モンスターを倒せる人なんて……。

 これが、わたしのダンジョンの王子様の力なんだから!☆」


 その瞬間、ミーティアのLIVE配信の同接者数は、

 前代未聞の100万人を突破した。

 それだけの人々が、ひとりの少年が歴史を塗り替える瞬間を目撃した。


「ななな、なんなんだよぉ、これ……」


 真田はガクガクと震えながら、何が起きたのかさえ

 いまだ理解できないでいた。

 賢太が心配して近くづと、ひっ!とか細い悲鳴を上げた。


「く、来るなぁ! お、おまえ……おまえがそんな強いわけねえ!

 いつもオレに殴られてるおまえが……!

 オレに金巻き上げられる、弱者のおまえが……!」


 賢太は少々困惑しながら答えた。


「それは……真田くんが、こんなに弱いとは、思わなかったから」


 あまりにも素直な賢太の言葉に、真田は愕然とする。


 だが、真田の絶望はそれだけでは終わらなかった。

 ミーティアが困ったような顔を浮かべる。


「あのねー、一応これ全世界に配信してるんだよねー。

 だからーそういう、のは、

 あんまり良くないと思うけどなぁ☆」


「……!!」


 真田がドローンカメラの存在に気づく。

 だがすべては手遅れだった。


 自分がイジメに加担していたこと。

 そのイジメていた相手に、圧倒的な力の差を見せつけられたこと。

 この瞬間、世界中に知れ渡っていた。


「**高校1年3組の、真田玄くん。

 わたしの王子様にしたことの報い、一生かけて後悔するといいんじゃないかな☆」


 天星ミーティアは賢太の腕に抱き着きながら、

 美しく残酷な笑顔でそう宣告した。




__________________________



 ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございます!

 できるだけ読者の皆様に楽しんでもらえるな展開にしていけたら

 いいなと思っています。


 もし続きが気になる、読みたいと思っていただけたら

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 それでは、引き続き本作をお楽しみください。

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