第3話

 休み時間の教室で、賢太の机のまわりに尋常でない

 人だかりができている。


 その中心にいるのは、賢太と、賢太に熱烈な視線と

 笑顔を向けている、妖精のように美しいひとりの少女だ。


「あの……天星ミーティアさん、だっけ」


「はわわわ……! け、賢太が私の名前口にしてるぅ……!

 やっばぁ……超夢みたい☆」


「えっと……ちゃんと聞こえてるかな……」


「もっちろん! 賢太の声をわたしが聞き漏らすわけないでしょ。

 ばっちり全部ボイスレコーダーで保存してるよ」


 そう言って彼女はスマホを掲げて見せた。

 確かに画面にはレコーダーのアプリが起動している。


 賢太が周囲を見ると、

 クラスメイトたちがスマホで見境なく写真をとっていた。

 もちろん、対象は賢太ではなく、彼女の方だ。


「にしても賢太の制服姿初めて見たよ~!

 はぁ……やばい、かっこよすぎる……めっちゃ推せるぅ……」


「……あの、天星さん」


「ミーティアでいいよ! 視聴者の皆もそう呼んでるから」


「視聴者?」


「そ! わたし、天星ミーティアは、

 ダンジョンで配信するStuberなのです! キラミー☆」


 彼女がスマホに向かってなにやらポーズとウィンクを向けると

 ギャラリーが一斉に沸いた。

 

「生キラミーだ!」「すっごーい!」

「やっば可愛すぎ……!」


 女子も男子も関係なく騒いでいる。

 彼女が言うには、ダンジョンで配信するStuber――らしい。

 

「……って、なに?」


「え、えぇえぇええええ!? 賢太、知らないの!?」


「うん」


「そっかぁ……うんうん、そういう抜けてるところも萌える!

 また今度じっくり教えてあげるね☆」


「はぁ……。ありがとう……?」


 賢太が礼を言うと、ミーティアは今にもとろけそうな顔で

 ため息をもらした。


「ねぇねぇ、じゃあ早速だけど賢太との運命の再会を記念して

 配信しちゃおっかなー?」


 ミーティアが呟くと、またギャラリーがざわついた。

 

「うっそミーティアの生配信見れんの!?」

「それエグくない?」「お!通知きた!」


 皆が自分のスマホとこちらを交互に見て驚いている。

 

 なんとなく、彼女が皆の知っている有名人だということは

 賢太も理解しつつあった。


「キラミー!☆☆

 みーんなお待たせ! どう、制服姿似合ってるかな?」


 ミーティアがスマホで上から自分を映しながら、スカートのすそをつまむ。

 教室の後ろで何人かの男子が倒れる音がした。


「うんうん!ありがとー!

 普段お仕事でも色んなコスプレとかしてきたけど、

 やっぱり本物の制服っていいよねぇ。

 あ! で今日はみんなに、チョー重大な発表がありまーす☆」


 ミーティアは、席に座っていた賢太の腕をからめとった。

 腕を引き寄せ、ほとんど賢太に抱き着くような態勢になる。

 賢太の腕に、まったく未知の感触が押し当てられた。


「私、Stuberの天星ミーティアは、

 今日からここにいる黒上健太くんと、

 カップル配信やっていくことを宣言しまーす!☆」


 一瞬の静寂の後。

 今度こそ、学校中を爆発的な騒ぎが襲った。

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