第28話 元貴族の冒険者、特訓の成果を発揮する(後編)
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「何だよ、あいつら・・・」
Cランク冒険者のボックは、目の前の光景に戦慄していた。
ダンジョン地下五階、下へと降りる階段付近。
そこには今、無数のミノタウロスの死体と、
それを作り上げた二人・・・いや、三人が無傷で立っていた。
Dランク冒険者のクリスとリコ、
クリスの友魔である白狼のユキ。
「クリス君、これで全部かな?」
「うん、ユキが間違いないって」
白狼のユキが、二人に身振りでうなずく。
そんな三人の様子に、
ボックも、そして討伐隊の冒険者たちも、言葉がなかった。
(こ、こいつらは一体・・・)
そんな彼らを横目に、パーティーのシンが進み出て、無言でマジカルボックスに魔牛の死体を収納していく。
入れ終わったのを確認したリコが、
「皆さ~ん、お待たせしました~」
と、周りに呼びかける。
「ヴァンさん。
まだ先頭を続けてもいいですか?」
クリスにそう問われた隊のリーダーヴァンは、
「いや、魔柱は地下六階でも目撃されている。
ここからは俺たちが行こう」
と、背中の大剣を抜いて答えた。
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今回の討伐対象である、
魔柱フランティック・トーテム。
その出現場所は地下六階からだが、
それは魔柱が複数いるのか、移動しているのか。
「できれば、前者であってほしいがな・・・」
先頭のヴァンは、そばを歩くB級以上の仲間たちに言った。
――その答えは、恐ろしく早く出た。
前方に三本の巨大な柱が・・・。
それも無数の眼を開いた・・・。
「っ全員、ふせろ!!!!」
ヴァンの指示に反応して、
素早くふせる冒険者たち!
だが、全員ではなかった。
「え?」と聞き返した数人が、
魔柱共の眼から放たれた光線に貫かれる・・・!
「ぎゃあああっ!!!!」」」」
運悪く、即死を免れた冒険者たちの悲鳴が響き渡る!
クリスもリコも、
初めて味わう人の死の匂いに愕然とする。
「くそったれ!
まさか複数で現れるとは・・・!」
毒づきながらもヴァンは、大剣の側面を盾に後ろの冒険者たちをかばう。
Aランク冒険者の魔導士も、防御壁を張って受け止めている。
だが、敵の手数が多すぎる・・・!
予定では一匹一匹、相対する作戦だった。
飛び道具で相手の攻撃元である眼を攻め、
ひるんだところをヴァンがその眼から大剣で貫く。
そして、ダンジョンの瘴気でも再生不可能なほどに破壊・・・、
だったのだが・・・。
リーダーのヴァンも攻めあぐねている。
そう見て取ったクリス。
周りを見れば、魔柱の光線でどんどん被害が大きくなっていく。
ボックは既にパーティーの仲間をやられ、自身も重傷を負っている。
ユキもシンも、直撃をかわすのが精いっぱいだ。
少しずつ出血は増えていく・・・。
「クリス君、あいつら、全然スキが見えない・・・!」
そばにいるリコも、ボウガンを放つ余裕がない。
「リコ・・・」
(このままじゃ皆が・・・)
こういう状況、前にもあった。
まだ魔狼だったユキとの戦いで、
こんな風に自分の死を感じて・・・。
(そうだ・・・!)
イチかバチか、あの時と同じように・・・。
クリスは胸元のペンダントを握ると、
前方にいるヴァンの後ろに回り込んだ。
「危ないぞ!ふせていろ!」
そう指示するヴァンに、クリスは簡潔に説明する。
「ヴァンさん、今から奴らの動きを封じます。
もし成功したら、皆に攻撃の指示を・・・!」
それだけ言うと、クリスは魔柱の前に立った。
胸元のペンダントの蓋を開いて・・・。
「クリス君っ!!」
「クリス!」
後ろから仲間の声が聴こえた。
魔柱の一匹が、クリスに目線を合わせ、
光線を発射した。
その光に、クリスはペンダントの宝石を向けた。
母マリアの形見である、
魔除けの石・・・
クリスのスキル『研磨』により、
その反射光は浄化の域にまで磨かれていた。
かつて魔狼だったユキを、人と分かり合える白狼へと変えたように・・・。
今、あの時以上の光源を反射させた石の光が、
魔柱共を包む・・・!
聖なる光を浴びたその領域は、
完全に魔の瘴気が浄化された。
魔柱共にとって、生命力の源であった瘴気が・・・。
三匹の魔柱が、同時に攻撃をやめ沈黙する。
「今だ・・・、ヴァンさん、皆、今のうちに・・・!」
何とかそれだけ告げると、
胸を貫かれたクリスはゆっくりと崩れ落ちた。
「クリス君っ!!!!」
絶望的な顔になって駆け寄るリコ。
そして魔柱と、その周りに漂っていた瘴気の消失を感じ取ったヴァン。
「敵の攻撃は止んだぞ!
全員、総攻撃だ!!
奴らの眼をつぶせ!!」
「え、あ、本当だ!」
「よし、いこう!!」
「おお――っ!!!!!」」」」
――あとは一方的な展開となった。
クリスによって周辺を浄化され、力の源である瘴気の供給を断たれた魔柱の光線は、
もはや見習い魔術師の
瘴気による再生が不可能となった魔柱共は、
致命傷を負った瞬間、鈍く光る三つの魔石を残して消滅した。
一匹はヴァンの大剣で、
一匹はヴァンと同じA級冒険者の魔法で、
そして、
最後の一匹への止めは、シンの剣によって刺されていた・・・。
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戦闘が終わり、
重傷の冒険者たちに
だが、ヴァンの仲間であるAランクの回復術師の魔法でも、
クリスの傷はなかなか治らない。
「この子、普通の人よりも生命力が弱いわ・・・。
このままじゃ・・・」
回復が間に合わない・・・、
そう彼女は言った。
常人より弱い生命力・・・。
それは、かつてクリスが『研磨』のスキルで、
自分の『命』を少々削り、瀕死のユキに分け与えたから・・・。
辛そうな表情で、見守るユキ。
このままでは、クリスは助からない・・・。
「なら、わたしが代わります・・・!」
それまでクリスの手を握っていたリコが言った。
「リコ、何を・・・?」
そばで見守っていたシンのその問いに、リコは行動で答えた。
「『
リコがそうつぶやいた瞬間、
リコとクリス、二人の身体がほのかに光る。
それが止むと、クリスの傷は完全に消えていた。
そして・・・、
「リコっ!!」
シンが叫んだ。
クリスの上に折り重なるように、
スキルで彼と傷を交換したリコが崩れ落ちた・・・。
【つづく】
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閲覧ありがとうございます!
そして・・・、
『クリスの代わりに重傷を負ったリコ!
果たしてその生死は!?』
どうか、この先にあるコメント欄にて、
あなたの中に浮かんだアイデアをお贈りください!
簡単な一言で構いません!
『死亡』とか、『生還』とか、『戦闘力アップ!』とか・・・。
なるべく、この最新話を読まれただけで参加可能なお題にしましたので、
どうぞよろしくお願いします!
――というお願いにお声を頂きまして、
本当にありがとうございました!
新しいお題は最新話にて・・・!
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