第27話 元貴族の冒険者、特訓の成果を発揮する(前編)

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 ダンジョンで立て続けに確認されるようになった、

 魔柱フランティック・トーテムの出現。


 それによって、ギルドでもダンジョンでの探索を主としていたパーティーは、

 その懐に大打撃を受けていた。


 低階層の魔物の素材だけでは、実入りは少ない。


 パーティーなら特に、その資金りのためにも、

 なるべく深く潜る必要がある。


 だが、フランティック・トーテムは強敵である。


 並みの冒険者では、たとえパーティーを組んでも全滅は必至なほどに・・・。


 そんな冒険者たちの状況を見て、

 ギルドは彼ら全体に緊急の依頼を出した。


 それが、今回の『魔柱討伐チームの結成』である。


 参加可能なのは、Cランク以上の冒険者もしくはパーティー・・・。


 クリスとリコはまだDランクだが、

 彼らパーティーのまとめ役であるシンがBランクのため、

 パーティーとしてはCランク相当と判断されていた。


 そして、かつてシンは、

 以前の仲間たちをその魔柱に殺された過去を持つ。


 クリスもリコも、シンに討伐チームの参加を提案した。


「行こうよ、シン!

 そのために、あれだけ鍛えてきたんだし」


「クリス・・・」


「それに、今回はギルドからの依頼でしょ?

 だったら何か対策があるはずだよ。

 ギルドにとって商売道具のわたし達を、無駄死にさせようとするわけないしね」


「リコ・・・」


 そばにいた白狼のユキも、

 二人に賛成といった風に首を揺らした。


 自分はともかく、

 クリス達仲間の命を危険にさらしたくはない・・・。


 そう思って迷っていたシンだったが、

 やがて首を縦に振った。


(今度こそ、誰も死なせない・・・!)

 そう心の中で誓って・・・。



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 当日、討伐チームは二十人ほどだった。


 チームのリーダーは、

 Aランク冒険者のヴァン。


 クリス達が彼と顔を合わせるのは、

 あの昇級試験以来だ。


 集合場所のダンジョン入り口で、

 クリス達に話しかけてきた。


「クリスとか言ったな。

 お前のスキル、期待しているぜ」


「・・・はい」

 クリスはこれを、

 ヴァンからの警告と理解した。


 そう・・・。

 今回の討伐隊参加には、一つだけ条件があった。


『参加する冒険者はギルドへ、自身の得意分野はもちろんスキルも報告する事。

 集めた情報に関しては、ギルドからリーダーのヴァンだけには把握させておく』


 数か月前の昇級試験で、

 クリスはのリコを馬鹿にしてきた冒険者たちに、スキルを食らわせた。


『研磨』のスキル・・・、

 相手の持つ任意の機能を・・・。


 はた目には、ただ相手の肩をポンと叩いただけで、

 試験監督であるヴァンも、その場では何も言えなかった・・・。


 クリスのスキルを知らないあの時は・・・。


 クリスに釘を刺したヴァンは、

 次にシンに向かって言った。


「シン、今日は頼むぞ」


「・・・」

 シンはただ、コクリとうなずいた。


 仮面の奥にある表情は分からない・・・。


 ヴァンが離れてから、

 リコがシンに聞いてみた。


「ヴァンさんと知り合いなの?」


「同期だ・・・」

 シンは簡潔に答えた。


(同期・・・)

 クリスは思った。


 ひょっとして、魔柱に殺されたというシンの前の仲間たちも・・・。


 だが、彼の思考はそこで中断された。


「おいおい、何でE級がここにいるんだ?」


 そう言って、何か見覚えのある・・・気がする顔ぶれが近づいてきた。


 革の鎧に身を包んだ、いかつい顔をした三人の男・・・。


(えっと、確か・・・)


 以前、新人だった時のクリスを馬鹿にしてきた冒険者パーティーで・・・、リーダーの男はボック。


 ギルド受付のレナが、確かそう呼んでいた。


(C級以上だったのか・・・)

 クリスにはそれが意外だった。


「ボックさん、ですよね?

 僕は、今はDランクになって、パーティーでのランクもCです。

 だから、今回の討伐隊への参加資格もあります」

 とりあえず、相手に説明だけはしておく。


「ああん?だから何だよ?

 お前個人がDだってんなら、組む俺たちにとっちゃ足手まといなのに変わりはねえだろ」


「・・・」

 クリスは悩んだ。


 実際、ボック達のいう事は間違っていない。


 Dランクなら、

 Cランク以上のチームでは足手まといというのはもっともな話だ。


 だが、それを受け入れたら、

 自分もリコも、この討伐隊にいられなくなる。


 それなら・・・。


「分かりました。

 つまり僕たちが、参加に見合った力を示せばいいんですね?」


「あ?どうやって示すんだ?

 やろうってのか、俺たちと?」

 そう言って、武器に手をかけようとするボック達。


「いいえ、敵と戦う前に、味方同士で争う気はありません」

 そう言ってクリスは、ヴァンのほうに声をかけた。


「すみません、ヴァンさん。

 魔柱にたどり着くまでの戦闘は、僕たちに任せてもらえませんか?」


「・・・Dランクのお前たちが、俺たちの露払つゆばらいをしてくれると?」


「はい。

 主力の皆さんが、無駄な消耗をしないように」


「だが、単独でDランクなのはお前たちだけだぞ。

 二人だけで、途中の魔物すべてを相手にするというのか?」


「それは・・・」

「そうです」

 言いよどむクリスに代わって、リコが答える。


「あ、それと、二人でなくです」

 と、白狼のユキをなでながら付け加えた。


 ユキもフンス!と鼻を鳴らす。


「・・・分かった。

 なら、そうだな・・・、地下三階まではお前たちにまかせよう」

 そう言ってヴァンは、全体にクリス達の先駆けを伝えた。


「ごめん・・・、

 ありがとう、リコ」

 申し訳なさそうに言うクリスに、

 リコは笑って答える。


「君のためなら何でもするよ。

 特攻でも心中でもね」


「死ぬ気はないよ。

 怪我くらいはするかもしれないけど」


「あははっ、だよね~」


 そう言って二人は笑った。


 それは、油断ではなく強者の余裕だった・・・。


「気を抜くな・・・。

 そして、いちゃつくな・・・」

 ボソリとシンが釘を刺す・・・。


【後編につづく】



 ______________



 閲覧ありがとうございます!


 そして・・・、


 予想通り長くなってしまったため、

 今回も前後編の二話に分けます。


 お題は後編にてご用意しますので、

 ぜひとも、続く後編も閲覧ください!


 どうぞよろしくお願いします・・・!














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