第25話 元貴族の冒険者、・・・その仲良しの物語(前編)
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新たにパーティーに加入したリコ。
リコの戦闘慣れと、
パーティー全体の連携確立のために、
クリス達は連続でダンジョンに潜っていた。
元々はクリスもシンも、
リコはパーティーでも戦いには参加せず、
経理や情報収集などの裏方に徹してもらうべきでは、
とも考えたのだが、
「装備も買ってくれてありがとう!
絶対強くなってみせるからね!」
と、本人もやる気を見せていたので、
こうして鍛錬を行うことにしたのだ。
「リコは観察眼が凄そうだから、
後衛とかどうかな?」
と、提案するクリス。
なるべくリコを危険にさらしたくない、
という私情もからんでいるのかも知れないが・・・。
後衛用の武器としてプレゼントした高性能のボウガンを、
リコはまるで宝石のように喜んでくれた。
「嬉しい・・・!
ありがとうクリス君!」
そう言って、抱きついてくるリコとその甘い匂いに、
どぎまぎするクリス。
それを見て、
「ダンジョンでは集中を絶やすなよ・・・」
と、しっかり釘をさすシンであった・・・。
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「化けたな・・・」
真価を発揮しだした新しい仲間に対し、
シンはつぶやいた・・・。
最初は、まるで子供に初めてのお使いをさせるような気分だったが、
一か月もするとリコの力は格段に磨かれていった。
魔物が現れた瞬間、
相手の態勢から瞬時に相手のスキを把握し、
そこにボウガンの矢を撃ち込む。
相手が群れなら、
白狼ユキの
機先を制す。
その後さらに、敵と味方の攻防を見て取り、
必要な局面、必要な箇所に的確に矢を射るのだ。
「武術の達人は、相手のスキ・・・攻撃の目が見えると言うが・・・」
シンが考える達人像・・・、
今リコは、その領域に足を踏み入れようとしていた。
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リコのその観察眼、
それは決してスキルではなかった。
リコは娼館で生まれ、そこで育てられた。
親は娼婦と、その客であった。
父親である男は、
お忍びで定期的にやってくる、妻を持つ貴族だった。
母親である娼婦は、
もしかしたら男の妾にくらいはなれるのでは・・・、
という期待からリコを産んだ。
だが出産後、彼女の前に現れたのは、
男の正妻であった。
「あの人はもうここへは来ません。
卑しい娼婦ごときが、身の程を知りなさい」
そう言って、男の妻はリコの母親に手切れ金を押し付けて、
「ごねるようなら、
こちらもそれ相応の対応を致します」
と、付け加えて帰っていった。
その正妻の言葉通り、
男は二度と娼館には現れなかった・・・。
ようやくリコに物心がつき始めたころ、母親が消えた。
失踪か、自殺か、
それとも、男の妻の言葉を無視してごねたのか・・・。
幸いにも娼館の女たちは、
残されたリコを見捨てず養ってくれた。
その事に感謝しながらも、
リコは本能で自分の立場を理解し、
今の生活は、その対価を払うべきものだと感じていた。
だから、娼館の仕事を手伝うことにした。
やってきた客を給仕として笑顔で出迎え、
待合室ではおしぼりと飲み物を出し、
事が済んだ部屋へ行き、掃除を済ませる。
合間を縫って、彼らの話し相手もした。
常連の客には顔を覚えられ、
たまにチップももらった。
それを女将に収めようとしたが、
「それは、あんたがもらった金だろ?
なら、自分のために使いな」
と、断られた。
よく気が付く、可愛い給仕の少年がいる雰囲気の良い娼館、
という事で客は増えていった。
そのため、娼婦たちはリコを小さな幸運の女神、
と可愛がるようになった。
リコは、
皆の一員として役に立っているという幸せと、
借りを返せているという安心を実感していた。
――はじめて経験したのは十歳の時だった。
相手は娼婦の一人だった。
向こうから誘ってきて、
リコはそれをやはり、借りを返すためのものとして応じた。
それを皮切りに、
娼館の女たちは遠慮なくリコを求めるようになった。
リコはそのすべてに応じた。
自分を求める彼女たちへは喜ぶふりをして、
頑張っている彼女たちへはご褒美として、
落ち込んでいる彼女たちへは慰めとして・・・、
相手の求める応じ方を見極めて、
リコは忠実にその役回りをこなしていった。
彼女たちは美しかった。
リコは彼女たちを慕っていた。
だがリコは、
相手を喜ばせるため高ぶるふりはしても、
実際にそうなったことは一度もなかった。
ただただ、冷静に相手を見る目だけが、
【後編につづく】
_______________
閲覧ありがとうございます!
そして・・・、
思いのほか長くなったため、
今回は前後編の二話に分けます。
お題は後編にてご用意しますので、
ぜひとも、続く後編も閲覧ください!
どうぞよろしくお願いします・・・!
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