第23話 元貴族の冒険者、静かにかみつく
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正午になって、
クリスとリコは白狼のユキに乗って、集合場所へと戻った。
昨日の試験開始時と比べて、
受験者である、Eランク冒険者の数が半分近くになっている。
「結構途中で棄権したみたいだね」
と、クリスの耳元で言うリコ。
周りを気遣っての小声なのだろうが、
何とも気恥ずかしい。
周りの受験者たちも、こっちを
「何だよあの
女とイチャイチャしやがって・・・!」
「あの二人、昨日は行動が別々だったよな」
「じゃあ試験中に口説いたってことかよ。
あんな可愛い子をあんなガキが・・・。
横の従魔みたく
「相手の女も女だぜ・・・!
どうせ自分の力じゃ合格できる自信がないから、
おこぼれに預かろうと股を開いたんじゃないのか?」
「だよな?
あの貧弱な装備・・・、
どう考えても落ちこぼれだよな」
「チッ、だったら冒険者なんかやめて、
娼婦にでもなれってんだ・・・!」
「そうそう。
あ~あ、俺たちに声をかけてくれば、
試験に協力してやるだけじゃなく、
銀貨の二・三枚も恵んでやったのにな。
ま、その分夜はたっぷり奉仕してもらったがな」
「黙れ」
そこまで聞いたクリスは、
彼ら目掛けて鋭い声で言った。
「あぁ?
何だとこのガキ?」
「でかい
調子にのってんじゃねえぞ?」
パーティーらしきガラの悪い受験者たちが、
武器に手をかける。
全部で六人・・・。
「クリス君、いいから・・・!」
リコは慌ててクリスを止める。
クリスが怒ったのは、
彼本人の事ではなく、自分が侮辱されたからだと察したからだ。
だがクリスも、そしてユキも、
完全に敵を見る目で彼らを見ている・・・!
と、その時、
「そこまでだ!!!!!」
山頂まで響くような大音量が、
彼らの敵意をかき消した。
大剣を携えた試験監督、
A級冒険者のヴァンだ。
「私闘は許さん!
これ以上やるというなら、
俺が相手になるぞ!
当然、試験も不合格だ!!」
「・・・分かりました、すみません」
クリスはそう言って頭を下げた。
ユキも逆立っていた体毛が元に戻る・・・。
「はっ、腰抜けが・・・。
せいぜいそこの娼婦女と慰めあってろ」
捨て台詞のような連中のその言葉に、
リコがビクリと反応したのを、クリスは見逃さなかった。
だから動いた。
武器も持たずに、
ごく自然に罵倒してきたパーティーに接近する。
「あ?」
とっさに身構えた彼らに、
「悪かったね、
無駄に声を出させて・・・」
そう言ってクリスは、
「ごめんね」という感じで、一人ひとり彼らの肩にポンポンと触れていった。
最後に一度、毒気を抜かれたような彼らに頭を下げると、
ユキとリコのそばに戻ろうとするクリス。
横からヴァンが静かに問う。
「今、奴らに何をした?」
「さあ・・・。
でも、私闘はしていませんよ」
「・・・」
「他人に手の内は明かせません」
「・・・そうだな。
分かった」
そう言ってヴァンはクリスを解放した。
「ごめんね、リコ」
走り寄ってきたリコに、クリスは謝罪した。
だがリコは首をふり、
「ううん、ありがとう・・・」
そう言って、
(やっぱり、可愛いな・・・)
クリスはそう思った。
そして・・・、
リコは、何かを察したのかもしれない・・・。
クリスは彼らに触れた時、
『研磨』のスキルを使っていた。
彼らの『声量』、『
彼ら自身も気づくのが難しい、
その程度の能力低下・・・。
だが・・・、ひょっとしたらこの先どこかで、
今の影響で互いの声がうまく行き届かず、
彼らは不幸な事故にあうかもしれない・・・。
――その後、ヴァン達試験官たちによって、
合否が言い渡された。
サイズでは魔蛇でも最大級と言われる、
ブラックパイソンを倒したクリスは、
マジカルボックスからそれを出して見せた時点で合格。
他の受験者のみならず、
ヴァン以外の試験官二人も驚いた顔をしていた。
リコもクリスと組んでいたという事で、合格となった。
パーティーは個々ではなく、全体の成果が合否を決めるからだ。
「いいのかな・・・、
わたし、ほとんど薬草や食料をとっていただけなのに・・・」
そう言うリコに、試験監督のヴァンは、
「納得できるまで、これから精進すればいい」
と、言っていた。
ヴァンのその言葉に、
「はい・・・!」
と、嬉しそうに返事をするリコを見て、
何か、もやっとするクリス・・・。
ちなみに、
先の六人もギリギリで合格だった・・・。
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試験も終わり、
街へと戻ったクリス達は、
真っ先に冒険者ギルドへ行き、
受付のレナ、そして待っていたパーティーの仲間シンに合格を伝えた。
「おめでとうございます、クリスさん!
怪我もなくて何よりです・・・!」
そう言って、カウンター越しにクリスと手を取り合うレナ。
パーティーのシンも、
「お前とユキなら当然だな・・・」
そう言って右手を上げる。
「うんっ!」
パンッ!とハイタッチをするクリスとシン。
さらにユキにも、労をねぎらうように首筋をなでたシンだが、
「ところで・・・」
と、急に声が低くなり、
「そっちの女子は誰なんだ・・・、クリス・・・」
そう言って、先ほどからずっとクリスのそばにくっついているリコを、
仮面越しに見据えた・・・。
【つづく】
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ここまでお読みいただき、
本当にありがとうございます!
そして・・・、
『〈その女子は誰だ(お前の何なのさ)〉
と、パーティーのシンにリコ(男の娘)の存在を問い詰められたクリス・・・。
彼は、リコを何と言って紹介するのか!?』
なるべく、この最新話を読まれただけで参加可能なお題にしましたので、
どうぞあなたのアイデアを下のコメント欄にてお贈りください。
簡単な一言だけで結構ですので、どうか・・・!
『友達だよ』とか、『仲間だよ』とか、『セフレだよ』とか・・・。
神々よ、
あなたの声をお聞かせください・・・!
・・・というお願いを先日しておりました。
アイデアをくださり本当にありがとうございました!
最新話では常に新しいお題へのアイデアを切望しております。
なるべく、その最新話を読まれただけで参加可能なお題にしておりますので、
どうぞよろしくお願いします・・・!
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