第22話 元貴族の冒険者、手玉に取られる

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 ・・・当然の事ながら、

 クリスは一睡もできなかった。


 対して、リコのほうはしっかりと熟睡していた。


 同じ毛布の中、

 クリスにくっついてスヤスヤと寝息をたてている。


 乱れた髪が目元に垂れたその寝顔は、

 あどけなさと同時に、女子とは似て非なる妖しい色気をもかもし出している。


 年齢はクリスより一つ上、と言っていたが・・・。


(慣れて・・・いるのかな)

 自身でも分かり難い、穏やかならぬ気持ちを抱くクリス。



 ――やがて夜が明け、昇りはじめた陽の光が、

 テントの中を布地越しにわずかに明るくする。


 リコはゆっくりと目を開け、

 隣のクリスが既に起きているのを確認すると、

 自分も上半身を起こした。


 毛布が腰元までずり落ち、

 裸の上半身があらわになるが、特に慌てた様子もない。


「おはよ、クリス君」

 屈託のない笑顔で、挨拶してくる。


「あ、うん、おはよう・・・」

 クリスは逆にドギマギしてしまう。


(な、何か言わなきゃ・・・)


 そうだ、

 仮にも昨夜んだ!


 ここは男として、

 何か優しい言葉の一つも・・・!


(えっと・・・)


「あ、リコの裸きれいだね」


「え?」


(っっっ!)

 何言ってんだ馬鹿ーっ!!


 考えなしに口から出てしまった言葉に、

 クリスは完全に混乱してしまった。


 リコは腰元の毛布を胸元まで上げ、

 そのまま身体を横へ向けた。


(ま、まずい・・・これは・・・)

 リコに完全に軽蔑された、

 とクリスは焦った。


 だが、リコは顔半分を毛布で隠しながら、

 横目でクリスに照れ隠しのように言った。


「エッチ・・・」


「うぅっ・・・!!」

 クリスは完全に返す言葉を失った。


 リコはそのままクリスに背を向けると、

 毛布を横にやり、モソモソと服を着始めた。


 どうやらリコに嫌われたわけではないと分かって、

 ホッとするクリスだったが・・・。


 別の何か・・・、

『致命的な一撃』をくらった感がぬぐえなかった・・・。



 ~~~~~~~~~~~~~~~


 クリス達がテントから出ると、

 ユキの白い目が待っていた。


 まるで、

「昨夜はお楽しみでしたね~」

 と、あきれているような・・・。


「あ、ユキおはよう・・・」

 と、クリスが言っても、その表情は変わらない。


 確かに、冒険者試験の真っ最中に、

 しかも、いつ魔物が出るか分からない樹海の中で取るべき行動ではなかった。


「おはよ、ユキ!」

 リコはそんなユキの表情に気づいているのかいないのか、

 その巨体に抱き着いてモフモフやっている。


 ユキは憮然ぶぜんとした表情で、

 されるがままになっている。


 クリスはそんな光景を見ながら、


(そうだよ、リコが可愛いから、

 ああいう事になったんだ。

 他の人とだったら、絶対気を引き締めていたはずだ。

 うん!)

 そう自分を納得させていた。


 やがて、リコは顔を離すと、

とも、朝食はわたしがつくるよ」

 そう言って、腰に備え付けたポシェット型のマジカルボックスを開ける。


「え?

 リコ、食料とか持ってきていたの?」

 と、意外に思うクリス。


 装備が心もとないから、

 てっきり困窮こんきゅうしているものかと・・・。


 そんなクリスの反応に、リコは苦笑しながら、


「うん、何とか食事だけは、

 ちゃんとしようって決めてやりくりしているんだ。

 やっぱり冒険者は身体が資本だからね」

 そう言って、パンや果物を並べる。


 そして、

「美味しい肉が手に入ったんだ」

 そう言って、ボックスから一頭の魔鳥を取り出した。


 色は羽毛からトサカまでまるで燃えるような火の色だが、

 形状だけは鶏そっくりなこの鳥・・・、

 これは、


「ロックコッコ?」

 クリスは尋ねた。


 ロックコッコ・・・、

 そのくちばしは岩をも削ると言われる魔鳥である。

 ・・・と、本にあったと記憶している。


「当たり。

 昨日、試験中に仕留めたんだ」


「へえ・・・!」

 リコって普通に戦闘もできるんだ、

 とクリスは思った。


 同時に、庇護欲を覚えた昨日の自分を恥じる・・・。


「悪いけど、調理器具と食器だけ貸してくれるかな?

 まだ、そこまでは手がでなくて・・・」

 恥ずかしそうに言うリコ。


 ・・・やっぱり、なかなかに生活は苦しいらしい。


 クリスは快く承知して、

 自分のボックスからそれらを取り出した。


「ありがとう!

 じゃ、ちょっと待っててね」

 そう言って、リコは手慣れた感じで魔鳥をさばいていく。


「骨はスープの出汁に使って・・・と」

 鍋の水が沸騰してきたので、そこに解体した魔鳥のを入れて煮る。


 そして一方、比較的淡泊な部分の肉を一切れサイズに切っていき、

 塩やスパイスを揉みこみ下味をつけた後、フライパンの上であぶる。


 スライスしたパンの上に、自家製らしい野菜のマリネ、

 そして焼けた肉を2・3切れずつ乗せ、さらに上からもう1枚パンをかぶせる。


 即席のサンドイッチだ。


「スープに塩とコショウを入れて・・・と」


 

 ――完成だ。


 ガラで出汁をとったスープをカップに、

 サンドイッチは平皿に乗せて、

 リコはクリスに差し出した。


「召し上がれ」

 そう言って可愛らしくほほ笑むリコ。


「い、いただきます!」


「食後に果物もあるからね」


「う、うん」


 リコが自分の分をよそい、

 残りを鍋とフライパンごと直接、

 白狼のユキに差し出したのを確認すると、

 クリスはサンドイッチにかぶりついた。


「~っ!」

 美味しい!


 シンのつくってくれたスープも美味かったが、

 これにはさらに、料理としての華がある。


 クリスはたちまち、一つ目のサンドイッチを平らげてしまった。


「どうかな?」

 リコにそう聞かれて、

 クリスは勢いよく親指を立てる。


「そっか、良かった・・・」

 少しほっとしたように言うリコ。


 口に合うか不安だったのだろうか。


 それなら、とクリスはしっかり口に出して伝えた。


「美味しいよ!

 これからも毎日食べたいくらい・・・!」


 リコはその言葉を聞いて、


「ありがと・・・」

 と、今度は声が小さくなった。


 照れているのだろうか・・・。


「・・・」


 何故かは分からないが、クリスはそんなリコを見て、

 してやったり、という感情を覚える。


 それが態度に出たのか、

 リコが少し面白くないといった顔になる。


 だが、その後すぐ

「ねえ・・・」

 と、クリスに微笑みかける。


 からかうような、誘うような口調で、

「まるで恋人同士だね、これって」

 そう言ってくるリコに、


「え・・・?

 あ、う、うん、

 そうかな~?」

 と、再びクリスはしどろもどろになってしまう。


 そんな二人のやり取りをユキは、

 鍋のスープをぴちゃぴちゃ飲みながら眺めていた。


「勝手にやってろ・・・」

 とでも言いたげな生白い目で・・・。


【つづく】



 _________________


 ここまでお読みいただき、

 本当にありがとうございます!


 そして・・・、


『試験終了!

 やたらと距離が近いクリスとリコに対し、他の受験者の反応は!?』


 あなたの考えるD級冒険者共の態度を、

 下のコメント欄にてお贈りください!


 彼らが言いそうな簡単なセリフを頂ければ幸いです。

『組んだ!?』とか、『助けた!?』とか、『腐腐腐・・・』とか・・・。


 他にない物語の展開のためにも、

 どうぞお声をお聞かせください・・・!


 ・・・というお願いを先日までしておりました。


 アイデアをお贈りくださった神よ、

 感謝します・・・!


 常に最新話にてお題を出しておりますので、

 どうぞご協力お願いします・・・!





































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