第21話 元貴族の冒険者、初体験する(※若干閲覧注意)

「しっかりして!」

 クリスはユキから飛び降りると、

 うずくまっている受験者に駆け寄った。


 歳は自分と同じくらいか・・・。


 (スカート・・・、女の子か)


 普段着に、かろうじて革製の胸当てを身につけただけの、貧弱な防備である。


 目の前のブラックパイソンに襲われ、

 腕をおさえている、という事は・・・。


「噛まれた!?」


「ん・・・」

 青ざめた顔の受験者は、

 かろうじて返事をする。


 (まずい、毒が・・・)


 クリスも解毒剤は持っている。


 だが今目の前には、

 巨大な魔蛇が立ちはだかっているのだ。


 (時間はない!

 こうなったら・・・)

 クリスは素早く、

『研磨』のスキルで受験者をおかす毒の効果を


「あ・・・」

 苦痛が和らいだのか、

 受験者の身体がピクリと反応する。


 これで少しは時間に余裕が持てる。


 ここは逃げるのが正解なのかもしれない。


 初撃をうまくかわしてユキにまたがれば、

 追いつかれはしないだろう。


 だが、クリスはあえて戦うという選択をした。


 何故なら、


 (何だろう・・・、

 何か勝てそうな気がする)

 そう感じたからだ。


 今まで続けた『勘』がそう言っている。


 クリスやユキよりも、頭一つ高い位置から見下ろしていた巨大な魔蛇は、

 今にも仕掛けてきそうだ。


 だが、クリスはあえて自分から近づいていった。


 無造作に歩いて。


 目には見えない射程距離に入った瞬間、

 敵は大口を開けて噛みついてきた!


 瞬間!


 クリスはショートソードに、

 あらゆる『研磨』をかけ投げつけた!


『空気抵抗』と『距離』を放たれたその刃は、

 相手が反応する間もなく、その口内に吸い込まれ、

 内部に深々と突き立った!


「BNAAAAAAAA!!」

 痛みで巨体が暴れだす。


 クリスとユキは、

 巻き込まれないよう素早く間合いを取った。


 ここからは少し様子見だ。


『研磨』をこめた刃は、

 そのまま内部から魔蛇の力を食い荒らす。


『毒』、『嚥下えんげ』、『消化力』、『毒耐性』、『柔軟性』、『痛耐性』、『恐怖耐性』、『感知能力』・・・


 思い付く限りの力を、クリスは・・・!


 頭を大地に落とし、

 まるで自身が猛毒に侵されたように力を失ったは、

 もはやクリス達にとって俎上そじょううおだった・・・。



 ~~~~~~~~~~~~~~


「本当にありがとうございました!」

 助けた受験者は、夜には元気になった。


 あの後、

 ブラックパイソンに止めを刺したクリス達は、

 解毒剤を飲ませた受験者と共に、

 初めのテントの位置まで戻ってきた。


 そして、テントに寝かされた受験者は、

 数時間眠り続けたのち、

 クリスから体力回復用のポーションももらい、

 すっかり調子を取り戻したのである。


「スープ、良かったらどうぞ」

 そう言ってクリスは、

 温かいわんに盛ったそれを、

 さじを添えて差し出す。


 もうすっかり、夕食の時間だ。


「あ、ありがとうございます。

 えっと・・・」


「僕はクリス。

 こっちはユキね」

 クリスのその言葉に合わせるように、

 ユキも軽く眼を細める。


「クリスさんに、ユキさん・・・。

 あ、わたしはリコと言います!

 何から何まで、本当にありがとうございました!」


「どういたしまして。

 とりあえず食べようか」


「はい!

 いただきます!」


 シン直伝の野営用スープは、

 リコの口にも合ったようだ。



 ──食べ終わると、クリスはリコについて色々尋ねた。


「君はソロなの?

 他の受験者は皆パーティーを組んでいる感じだったけれど・・・」


「わたしも元々は、別の街でパーティーを組んでいたんです。

 でもすぐに、皆に気持ち悪いって言われて、

 わずかな手切れ金と一緒に追い出されて・・・」


「何だよ、それ・・・」

 ひどい話だ、とクリスは思った。


 こんな可愛い子を気持ち悪いなんて・・・。


「それで、この街に来て、ソロで冒険者をやっていたんですけれど・・・、

 E級の、しかも一人だから、仕事も限られて・・・」


 (それで、この頼りない装備ってわけか・・・)


 うなだれるリコを見ながら、

 クリスは考えた。


 この子をどうしたらいいんだろう・・・。


 クリス自身、とても安定しているとは言いがたい立場である。


 それなのに、これ以上世話を焼いて大丈夫なのか。


 最悪、リコも巻き込んで路頭に迷うなんて事も・・・


 (駄目だ、今色々考えたって!)


 今、自分は昼間からの連続戦闘で疲れている。


 こんな時に先の事を考えても、

 妙案など浮かぶはずもない。


 ならば、今日はもう・・・


「そろそろ休もうか」

 クリスがそう言うと、


「は、はい!

 わたし、ちゃんと見張っていますから!」

 リコは立ち上がってそう言った。


「え?

 いや、ユキがいるから大丈夫だよ。

 何かあれば眼を覚ましてくれるからね」


「で、でも・・・、部外者のわたしがテントの中の場所を取るわけには・・・」


「広いから大丈夫だよ。

 毛布も念のため二枚持ってきたんだ。

 もっと寒くなるかと思っていたからね」


「あの、でも、わたし・・・、

 こんなにして頂いてどうしたら・・・」


 (可愛い・・・いや、そうじゃなくて!)

 どうやらリコも自分と同じく、

 疲労でマイナス思考になっているようだ。


 そうクリスは判断すると、


「とにかく、話は明日にしようよ。

 今日は皆もう寝る。

 ね?」


「は、はいっ!

 お世話になります!」


 そんなわけで、

 クリスとリコは一緒にテントで寝る事となった。


 申し訳ないが、

 ユキはテント前で休んでもらう。


「ユキ、リコ、おやすみ」


「お、おやすみ、クリス

 ユキもおやすみ」


 ユキも首を動かして返事をする。



 ──夜中、

 クリスは隣のリコが気になって、

 なかなか寝つけなかった。


 考えてみれば、

 年頃の子と一緒に寝るなど、

 これまで一度もなかった状況である。


 その気配が伝わったのか、

 隣から声がかけられた。


「クリス君」


「え、な、何?」


「眠れないの?」

 リコが尋ねる。

 ・・・艶っぽい声だ。


「あ、うん、まあ・・・」


「そう・・・」


 既にリコは何かを悟ったのか。


 もぞもぞとクリスの毛布の中に入り込んできた。


「リ、リコ?」


「今日の事・・・。

 わたし、クリス君に何のお礼も出来てないから」

 そう、耳元でささやくリコ。


「だから、これくらいは・・・。

 受け取ってくれたら、わたしも嬉しいから・・・」


「リコ・・・」



 ──そのまま、クリスはリコと共に長い夜を経験した。


 ちなみに、

 二人は同性だった。


【つづく】



 ──────────────────


 ここまでお読み頂き、

 本当にありがとうございます!


 そして、


『果たしてリコの扱いは!?』


 あなたのアイデアを下のコメント欄にてお贈りください!


 一言だけでも想像が膨らみます!

『勧誘』とか、『レナ紹介』とか、『ヤリ逃げ』とか・・・。


 どうぞよろしくお願いします!


 ・・・というお願いを先日しておりました。


 コメント感謝します!


 常に最新話にてお題に対するアイデアを切望しておりますので、

 コメント欄にて一言頂ければ幸いです。
























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